放射光(X線)で小さなものを観察する大きな2つの施設

BL3

 

BL3はSACLAにおける初めての硬X線FELビームラインです。 2012年3月の供用開始から、 様々な分野において革新的な成果をうみだしています。 自己増幅自発放射方式(Self-Amplified Spontaneous Emission : SASE)による通常の運転モードで利用できる光子エネルギーの範囲は4~20 keVで、XFELビームを輸送するためにX線ミラーと二結晶分光器のいずれかを選択して用います。BL3の特色は、通常の運転モードに加えて、2色XFELやセルフシードXFELのような先端的XFELパルスを利用できることです。実験システムとして、XFELとフェムト秒光学レーザーのタイミングモニター、XFELナノ集光光学系、ハイパワーナノ秒レーザーとXFEL同時利用実験プラットフォームなどを備えています。

 

参考文献:
T. Ishikawa et al., Nature Photonics, 6, 540 (2012).
K. Tono et al., New J. Phys., 15, 083035 (2013).
K. Tono et al., J. Synchrotron Rad. 26, 595 (2019).

 

光源性能

 

最大電子ビームエネルギー 8.5 GeV
繰り返しレート 30 Hz(BL2&3同時運転時)
アンジュレータ周期長 18 mm
K値 ~2.6
光子エネルギー(基本波) 4-20 keV
パルスエネルギー 光子エネルギーに依存(下図参照)
エネルギー幅(ΔE/E) ~0.5%(二結晶分光器なし)
~0.01%(二結晶分光器あり)
パルス幅 < 10 fs

 

参考文献:
M. Yabashi et al., J. Synchrotron Rad. 22, 477 (2015).
K. Tono et al., J. Synchrotron Rad. 26, 595 (2019).

 

(参考)光子エネルギーとパルスエネルギー・光子数の関係(BL3の場合)

 

光子エネルギーとパルスエネルギー・光子数の関係(BL3の場合)

 

(参考)自己増幅自発放射(SASE)方式のスペクトル例

 

 

BL3の特殊運転

 

BL3では、通常のXFEL運転に加え、特殊なモードでの運転が可能です。各運転の概要については下記をご覧ください。

 

特殊運転を利用した実験を計画されている場合は、各運転の詳細情報をご確認の上、課題申請前にXFEL利用研究推進室(sacla-bl.jasri@spring8.or.jp)まで必ずお問い合わせください。

 

2色XFEL

 

SACLAのアンジュレータ列を2つの区間に分けて、それぞれに異なるギャップを設定することで2種類の波長のXFELを発振させることができます。BL3においては、 1色目のレーザー発振を終えた電子ビームをマグネティックシケインにより迂回させ、1色目と2色目のXFELパルスの間に時間差を付けることが可能です。 遅延時間は数十アト秒の精度で設定することができ、精密なポンププローブ計測などへの応用が期待できます。詳しくはこちらをご覧ください。

  

参考文献:
T. Hara et al., Nat. Commun. 4, 2919 (2013).

 

2色発振時のXFELビームパラメーターの例

 

  第1色 第2色
光子エネルギー 13.1 keV 9.7 keV
パルスエネルギー 40 µJ 40 µJ
最大遅延時間 300 fs

 

  第1色 第2色
光子エネルギー 12.2 keV 9.7 keV
パルスエネルギー 50 µJ 30 µJ
最大遅延時間 300 fs

 

  第1色 第2色
光子エネルギー 6.1 keV 5.9 keV
パルスエネルギー 60 µJ 60 µJ
最大遅延時間 450 fs

 

セルフシードXFEL

 

BL3において、反射型セルフシード方式によるXFELの利用が可能です。セルフシードXFELは、SASE型XFELと同等の平均パルスエネルギーを有しつつ、高い単色性を示します。詳しくはこちらをご覧ください。

 

参考文献:
I. Inoue et al., Nature Photon. 13, 319 (2019).

 

光源パラメーター

 

光子エネルギー 7 keV-15 keV
エネルギー幅 0.01%
パルスエネルギー 200 µJ@7-10 keV, ~100 µJ@15 keV

 

SDO(Split-and-Delay Optics)

 

BL3 OHには、分割遅延光学系(Split-and-Delay Optics, SDO)が常設されており、時間差を有するダブルパルスXFELを実験に利用できます。詳しくはこちらをご覧ください。
※SDOは、大阪大学の山内和人教授のグループとの共同開発により整備されました。

 

参考文献:
T. Osaka et al., IUCrJ 4, 728 (2017).
T. Hirano et al., J. Synchrotron Rad. 25, 20 (2018).

 

典型的なパラメータ

 

Photon energy range 5 ~ 15 keV
Relative bandwidth of each branch 5.6 × 10–5
Typical pulse energy of each branch ~0.2 μJ (SASE)
~2 μJ (self-seeding)
Delay time range negative to >100 ps
Delay time step <1 fs
Pre-alignment time ~5 hours

  

=======ここから下について=====

Schematic layout of the SDO system

Schematic layout of the SDO system

 

Conceptual illustration of the wavefront splitting (left) and example beam profiles measured at the exit of the SDO system

Conceptual illustration of the wavefront splitting (left) and example beam profiles measured at the exit of the SDO system

 

SDOに入射されたXFELパルスは、波面分割結晶(BS)により2つに分割されます。透過側のブランチ(青)には高品質なSi(220)チャネルカット結晶2個配置されており、光路長はある光子エネルギーにおいては固定となります。反射側のブランチ(赤)はBSを含め計4つの独立したSi(220)結晶で構成されています。結晶BR1とBR2とをそれぞれ移動させることで、光路長を変えることができ、分割パルス間の到達時間差を制御できます。

 

Photon-energy dependence of the range of time delay. At positive delay times, the CC branch pulse comes earlier.

Photon-energy dependence of the range of time delay. At positive delay times, the CC branch pulse comes earlier.

パルス間の時間差は0 fsをまたいで100 ps以上にまで、1 fs以下のステップで調整可能です。

  

Example results of field autocorrelation measurement

Example results of field autocorrelation measurement

 

正確な時間差ゼロは、干渉縞のビジビリティ変化から、数fsの精度で決定できます。ただし、干渉縞の発生には両ブランチが共に同じ光子エネルギーである必要があります。

 

XPR(X-ray phase retarder)

 

BL3 OHには、XFELの偏光を制御するためのX線移相子(X-ray phase retarder, XPR)が常設されており、偏光が制御されたXFELを実験に利用できます。詳しくはこちらをご覧ください。

 

参考文献:
M. Suzuki et al., J. Synchrotron Radiat. 21, 466 (2014).
Y. Kubota et al., J. Synchrotron Radiat. 26, 1139 (2019).

 

XPR装置の利用パラメーター例

 

XPR装置には偏光を制御するための3種類のダイヤモンド結晶が備えられています。各ダイヤモンドのパラメータと対応する光子エネルギーを以下に示します。

XPR装置の利用パラメーター例

 

各ダイヤモンド結晶を用いた際の円偏光度と透過率のX線光子エネルギー依存性の計算値は以下の通りです。

 

各ダイヤモンド結晶を用いた際の円偏光度と透過率のX線光子エネルギー依存性

ー円偏光度(左図)と透過率(右図)の光子エネルギー依存性
11.562 keV(PtのL3殻吸収端)における垂直直線偏光度と円偏光度の測定結果はそれぞれ67%、97%です。

  

共通装置

 

BL3に常設されている下記の装置を、必要に応じて利用することができます。

 

インラインスペクトロメーター

 

全てのXFELパルスの中心光子エネルギーを記録します。

  

ビームモニター

 

全てのXFELパルスのパルスエネルギーを記録します。

  

チャンネルカットモノクロメーター

 

シリコンのチャンネルカット結晶を2つ用いたモノクロメータです。

  

シングルショットスペクトロメーター

 

全てのXFELパルスのスペクトルを記録します。分解能と観測領域が可変ですが、分解能が良くなると観測領域は狭くなります。

 

タイミングモニター

 

XFELとフェムト秒光学レーザーのタイミングを全てのパルスについて記録します。

 

主な実験

 

BL3では主に下記のような実験が実施されます。