SDO (Split-and-Delay Optics)

 

 

 

BL3 OHには、分割遅延光学系(Split-and-Delay Optics, SDO)が常設されています。SDOを利用することで、1つのXFELパルスを分割し、異なる光路長のブランチを伝播させた後に同一光軸上に再結合させることで、時間差を有するダブルパルスXFELを生成出来ます。一方のブランチの光路長を可変とすることで、分割パルス間の時間差は0 fsをまたいで最大約100 psにまで制御でき、フェムト秒からピコ秒スケールのX線励起ダイナミクスや物質中の自発的な揺らぎを測定することが出来ます。本ページでは、SDOの素子構成や性能について紹介します。

 

SDOを利用した実験を計画されている場合は、利用可能な波長条件などについて、課題申請前にこのメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。まで必ずお問い合わせください。

 

※SDOは、大阪大学の山内和人教授のグループとの共同開発により整備されました。

 

 

光学系の構成

 

全体

 

 

SDOのレイアウトをFig. 1に示します。SACLAのSDOは計6つのSi(220)結晶光学素子により構成されています。SDOに入射したXFELパルスは、第1結晶であるビームスプリッタ(BS)により2つのレプリカパルスに分割されます。一方のブランチ(青色)では、(+, –, –, +)配置の2つのチャネルカット結晶(CC1 / CC2)により4回反射されます(CCブランチ)。CCブランチの光路長はある光子エネルギーでは固定となります。他方のブランチ(赤色)では、BSによる反射に加え、2つの反射素子(BR1 / BR2)とビームマージャー(BM)との計4回の反射を経て、CCブランチと同一光軸上に戻ります。BR1 / BR2はそれぞれ結晶表面垂直方向に可動であるため、光路長を制御出来ます(delayブランチ)。本光学系はエネルギー範囲5 ~ 15 keVをカバーします。エネルギーによって遅延時間範囲が異なりますので、Fig. 2をご確認ください。遅延時間は全エネルギー範囲に渡って1 fs以下の時間ステップで設定出来ます。また、通常のポンプ・プローブ測定で問題となる、タイミング同期の揺らぎであるジッターの影響を受けないため、アト秒オーダーの遅延時間安定性が達成されます。

 

本光学系は高密封のボックス内に設置されており、ボックス内をHeに置換できます。He置換時、ボックス内のHe濃度は80%を保つようフィードバック制御されています。なお、Heガス導入による安定性の悪化は確認されていません。

 

SDO optics

 

 

 

ー Fig. 1 Schematic optical layout of SDO system

 

SDO TimeRange 600x431

 

ー Fig. 2 Range of delay time as a function of photon energy. At positive delays the CC-branch pulse comes earlier.

 

ビームスプリッタ・マージャー(BS / BM)

 

 

SACLAのSDOでは、BS / BM素子として、結晶エッジ部を高精度に研磨した波面分割結晶(Fig. 3)を利用しています[1]。XFELの光軸上に結晶エッジ部を挿入し、BSに照射された部分のみ反射されdelayブランチへと、残りの部分はCCブランチへと分割されます(BMでも同様に、delayブランチのみBMによって反射されます)。この波面分割結晶により、

 

  1. 同一のスペクトル分布を有する分割パルスの生成
  2. 結晶エッジ部の挿入位置制御による容易な強度比制御

 


が達成されます。しかし、BM直後では空間的に分離されている分割ビームを試料面上で重複させる必要があるので、わずかではありますが、水平方向に試料への入射角度差が生じます。

 

 

 SDO WFS 600x257

ー Fig. 3 Conceptual picture of wavefront division with an edge-polished crystal (left) and an example beam profile measured just downstream of the SDO (right).

 

スペックルフリーチャネルカット結晶(CC1 / CC2)

 

CCブランチに利用されているチャネルカット結晶は、大阪大学山内研究室の独自技術である、Plasma Chemical Vaporization Machinig(PCVM)と呼ばれる加工技術を利用して開発されました[2]。チャネルカット結晶では、単一の素子においてX線が2回反射されるため、入射光軸と反射光軸との平行性を数ナノラジアンレベルで安定できる非常に有用な素子として知られています。しかし、構造上CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の高精度無歪研磨技術の適用が難しく、表面の最終処理には機械的作用の強い研磨、もしくは溶液によるエッチングが利用されてきました。結果として、無歪かつ平滑な表面状態を達成することが難しく、反射ビームの波面が乱され、強度のモジュレーション(スペックル)が生じます。純化学的加工法であるPCVMにより最終表面処理を施すことで、無歪かつ平滑な表面状態を達成し、XFELの整った波面を維持することが出来ます(Fig. 3)。なお、PCVMはBL3 EH1に設置されているSi(111) DCCMにも適用されており、ポンプ・プローブ測定の高度化にも役立っています[3]。

 

 

SDOの性能

 

パルスエネルギー

 

SDOの各ブランチはSACLAにおいて汎用的に利用されている非破壊型の強度モニタを搭載しており、分割パルスそれぞれの相対パルスエネルギーをショット毎に計測することが出来ます。また、各実験ハッチに搭載されている、絶対値への変換係数が校正されたビームモニタを利用することで、ショット毎のパルスエネルギーの絶対値を導出することが出来ます。通常、より安定なCCブランチの強度モニタと校正されたビームモニタの2つを利用し、両分割パルスのパルスエネルギーを算出します。その場合、測定誤差は約5% rmsとなります(Fig. 4)。

SDO IntensityMeasurement

 

ー Fig. 4 Results of pulse energy diagnostics of SDO. (left) correlation between a calibrated beam monitor and a monitor at the CC branch measured by blocking the delay branch; (middle) Error distribution of the CC branch monitor; (right) sum of pulse energy vs normalized intensity difference between split pulses.

 

本光学系はSi(220)結晶により構成されているため、X線モノクロメータとしても機能します。相対バンド幅ΔE/E = 5.6 × 10-5の単色度を持ったXFELを利用できるというメリットがある一方で、多くのフォトンを失ってしまうというデメリットもあります。SASEモードでは、両分割パルス合わせて平均約0.5 μJとなります。近年開発されたSelf-Seedモード[4]では、単色性の高い高強度XFELを発生させることが出来るため、SDO利用時のパルスエネルギーは飛躍的に向上し、平均3 ~ 8 μJとなります。

 

 

遅延時間精度

 

BR1 / BR2結晶素子の移動量に伴う遅延時間変化量は精密に校正されており、誤差1%未満での遅延時間制御が可能です。また、時間差ゼロは自己相関法により実験毎に決定します[5]。非集光の分割ビームを部分的に重複させることで、遅延時間がコヒーレンス時間以下の場合、重複領域に干渉縞が生じます。干渉縞のビジビリティを評価することで、時間差ゼロを1~2 fsの精度で決定することが出来ます(Fig. 5)。

 

 

SDO Interference 600x423

ー Fig. 5 Example result of autocorrelation measurement.

 

集光位置安定性

 

SDOの利用実験では一般的に集光ビームが利用されます。集光ビームの場合、数百ナノラジアンのビーム角度変動により集光位置が敏感に変化してしまいます。SACLAのSDOでは頑強な石定盤上に光学系が構築されており、各結晶の制御機構も高剛性なステージにより構成されているため、Fig. 6のように短期的にも長期的にも集光位置が安定します。

 

SDO pointing

 

ー 

Fig. 6 (Left) long-term stability of relative focal pointing and (right) distribution of short-term pointing jitter. During this measurement, split beams are focused to 1 μm spot with a KB mirror system at EH4c.

 

 

遅延時間を変更した際も、ステージの姿勢変化により集光位置が変動してしまいます。ステージの姿勢変化には再現性があるので、遅延時間に対する集光位置変動にも再現性が確認されます(Fig. 7)。原理的には遅延時間変更時のポインティング変動も打ち消すことが出来ますが、連続的なステージ駆動による熱の発生により、集光位置のドリフトが大きくなります。従って、数μmオーダーでポインティングを安定させる必要がある場合、現在のところ遅延時間の連続的スキャンは困難です。

 

 

 

 

SDO DelayScan

ー Fig. 7 Pointing stability during delay scans.

 

 

エネルギースキャン

 

 

本光学系では、遅延時間だけでなくX線エネルギーを変化させることも出来ます。これにより、X線ポンプ・X線プローブ分光測定が実現でき、X線励起に伴う電子状態変化のダイナミクスを測定出来ます。いずれのブランチに対してもエネルギーを変更することは出来ますが、光学系の安定性という観点から、一般的にはCCブランチのエネルギーをスキャンします。従って、遅延時間の正負が入れ替わります。また、一方のブランチのみエネルギー変更する場合、同時に遅延時間も変わってしまいますが、その補正も可能です。このような測定はバンド幅の広いSASEモードでのみ可能で、測定可能エネルギー範囲はSASEのバンド幅に依存し、およそ30 eV程度となります。

 

SDO EnergyScan 600x445

ー Fig. 8 Delay time dependence of absorption spectra of Cu.

 

SDOの制御

 

 

複雑な光学系であるSDOですが、ユーザーフレンドリーなPythonモジュール(sdopy)を利用して制御することが出来ます。sdopyでは以下の操作を半自動的に行うことが可能です。

 

  • 遅延時間の変更とそれに伴う各種機器の位置変更
  • 各結晶素子の半自動再アライメント
  • 強度モニタの絶対パルスエネルギーへの変換係数自動測定
  • 分割パルス間の強度比分布の測定
  • 各ブランチのエネルギー変更とそれに伴う各種機器の位置変更

source: /xdaq/work/share/SDO/sdopy.py

 

 

参考文献:
[1] T. Hirano et al., J. Synchrotron Rad. 25, 20 (2018).
[2] T. Hirano et al., Rev. Sci. Instrum. 87, 063118 (2016).
[3] T. Katayama et al., J. Synchrotron Rad. 26, 333 (2019).
[4] I. Inoue et al., Nat. Photon. 13, 319 (2019).
[5] T. Osaka et al., IUCrJ 4, 728 (2017).

 


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