放射光(X線)で小さなものを観察する大きな2つの施設

磁気冷凍材料の冷却能力と安定性を両立する材料設計手法を確立
共有結合の精密制御により高効率・高持続性磁気冷凍材料を実現


2025年12月19日
NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)
国立大学法人京都工芸繊維大学
公益財団法人高輝度光科学研究センター
兵庫県公立大学法人 兵庫県立大学
Technical University of Darmstadt
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)


NIMS、京都工芸繊維大学、高輝度光科学研究センター、兵庫県立大学、東北大学、ダルムシュタット工科大学の研究チームは、磁場のオン・オフで温度が変化する磁気冷凍材料について、冷却能力と安定性の両立を可能にする材料設計の新手法を開発しました。材料内部の共有結合の種類や配置を精密に制御することで、磁気的な性質の変化に伴う原子配列の遷移がスムーズに進行し、それに伴う不可逆的なエネルギー損失の大幅な抑制が可能になったことで、この両立に成功しました。
本成果は、エネルギー効率の高い磁気冷却技術の開発に新たな道を拓くものであり、2025年12月18日にAdvanced Materials誌に掲載されました。


■従来の課題
エアコンや冷蔵庫、冷凍機など従来の冷却方式(蒸気圧縮式冷却)では、温室効果ガスを排出する冷媒が使用されており、環境負荷が懸念されます。温室効果ガスを排出しない技術の候補の一つとして、磁場のオン・オフで温度変化する材料を利用した磁気冷却技術が注目されています。しかし、この技術の性能向上を目指す研究開発において、次に述べるジレンマが長い間立ちはだかっていました。すなわち、磁場のオン・オフを繰り返す際に材料内部でエネルギー損失が発生するため、冷却能力を保持し続けることが困難である一方(安定性の欠如)、その損失を抑えるための材料設計を行うと、磁場を加えた際の温度変化が減少して冷却効果が弱まる(冷却能力の減少)というトレードオフです。
■成果のポイント
本研究チームは、金属間化合物の組成を原子レベルで精密に調整することで、元に戻すことができないエネルギーの損失を制御する金属間化合物の材料設計手法を開発しました。この手法を実証するため、磁気冷凍材料であるGd(ガドリニウム)とGe(ゲルマニウム)の金属間化合物の改良を試みました。この材料は、磁場印加時にGdのスピンの向きが揃い(図1の青丸から緑丸への変化)、温度が上昇しますが、スピンの変化に連動して、層間を構成するGe(図1の茶丸)の結合距離が変わりヒステリシス(履歴)が発生していました。今回、Geの一部をSn(スズ)に置換することで、層間の厚み変化を抑えた結果、冷却能力の低下を防ぐことに成功しました。さらに磁場を印加した当初の温度変化も7 Kから8 K(7 ℃から8 ℃)と増加し、持続性のみならず、材料の磁気冷却性能も向上させることに成功しました。



図1. 今回開発した材料の模式図。磁場を印加していない状態(右側)では、上側のスラブ(以下、層と標記)と下層に含まれるGdのスピンの向き(白矢印)は揃っていないが、磁場を印加すると(左側)揃い、温度が上昇する。


■将来展望
今回得られた磁気冷凍材料は極低温領域で動作し、水素の液化に最適な特性を示すことから、環境負荷の少ない液体水素技術の実現に貢献すると期待されます。さらに、本研究は望ましい特性を実現する磁気冷凍材料設計の新たな手法を提案しています。今後は、この新手法に基づき、他の化合物への応用拡大を計画し、その応用分野の拡大を目指していきます。


■その他

・本研究は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究センターのTang Xin主任研究員、寺田典樹主席研究員、Xiao Endaポスドク研究員、只野央将グループリーダー、Andres Martin-Cidポスドク研究員、大久保忠勝副センター長、Hossein Sepehri-Aminグループリーダー、NIMS技術開発・共用部門の松下能孝ユニットリーダー、NIMS宝野和博フェローと、京都工芸繊維大学の三浦良雄教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)の大河内拓雄主幹研究員(現:兵庫県立大学教授)、河口彰吾主幹研究員、小林慎太郎研究員、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの中村哲也教授、及び、ダルムシュタット工科大学のAllan Döring博士課程学生、Konstantin Skokov senior researcher、Oliver Gutfleisch教授からなるチームによって、日本学術振興会国際共同研究プログラム(JRP-LEAD with DFG;プログラム番号 JPJSJRP20221608)および科学技術振興機構(JST)ERATO「内田磁性熱動体プロジェクト」(課題番号 JPMJER2201)の支援を受けて実施されました。


論文情報
雑誌名:Advanced materials
題名:Control of Covalent Bond Enables Efficient Magnetic Cooling
著者:Xin Tang, Yoshio Miura, Noriki Terada, Enda Xiao, Shintaro Kobayashi, Allan Döring, Terumasa Tadano, Andres Martin-Cid, Takuo Ohkochi, Shogo Kawaguchi, Yoshitaka Matsushita, Tadakatsu Ohkubo, Tetsuya Nakamura, Konstantin Skokov, Oliver Gutfleisch, Kazuhiro Hono and Hossein Sepehri-Amin
DOI:10.1002/adma.202514295


研究の背景

よりクリーンな社会の実現に向けて水素活用が推進されており、このために効率的で低炭素な冷却技術の実現は必須です。従来の蒸気圧縮式冷却方式は温室効果ガスの利用と低いエネルギー変換効率により地球温暖化への影響が大きく、さらに効率的で低炭素な冷却技術が求められています。固体状態の磁気冷却技術は、冷却技術として有望な代替手段の一つです。この技術は、磁気熱量効果を利用しています。固体状態の磁気熱冷却技術(マグネトカロリック冷却)は有望な代替手段であり、これは磁気熱量効果(MCE)[1]を利用します。この効果は、等温条件下での磁気エントロピー変化(ΔSm)[2]や、断熱条件下での温度変化(断熱温度変化)(ΔTad)[3]として現れます。初期の研究では、金属間化合物[4]において「巨大な」MCEが発見され、従来の冷却技術を置き換える可能性が示されました。しかし、多くの「巨大な」応答は長期的なサイクル運転では持続できないことが分かっています。その結果、既存の材料はデバイスとして安定した性能を発揮することが難しいのが現状です。このことから、効率的な冷却を実現するためには、MCEの可逆性[5]を高めることで、巨大なMCEを維持しつつ多数のサイクルにわたって安定した動作を保つ材料が求められています。



研究内容と成果

・今回、巨大で可逆的な磁気熱量効果(MCE)を示す新しい化合物を開発し、磁気冷却の持続的な利用を可能にしました。純粋なGd5Ge4(Gd(ガドリニウム)とGe(ゲルマニウム)から成る化合物)では、大きなヒステリシス[6]が生じるため、MCEがサイクル運転中に不可逆的になってしまいます。しかし、これにSn(スズ)を添加して合金化することでヒステリシスが除去され、巨大かつ可逆的なMCEが得られることが分かりました。可逆的な断熱温度変化(ΔTad)は2倍以上に増加しており、図2にその結果が示されています。基礎的な解析によると、Snは単位格子内のスラブ間領域[7]における局所的な化学環境を変化させ、共有結合[8]の強さを低下させることで、相転移に対してより有利な活性化障壁[9]を形成することが分かりました(図3参照)。その結果、不要なヒステリシスが解消され、開発された化合物において巨大で可逆的なMCEが実現されました。なお、本研究では大型放射光施設SPring-8[10]のBL02B2、BL25SUを利用しました。


・この新しい化合物は、可逆的MCEに関して、既知のさまざまな磁気熱化合物の中でも、5 T(テスラ)の磁場変化において等温磁気エントロピー変化ΔSm=32 J/kg・K、および、断熱温度変化ΔTad=8 Kという高い性能指数を示しています。これは既存のほとんどの磁気熱量材料と比較して、ΔTadおよびΔSmの両方において1.5~2倍のMCEに対応します。さらに、この新しい化合物は組成を設計することで40〜160 K(約-233 ℃~約-113 ℃)の温度範囲の中から動作温度を設計できるので、この温度域に液化温度を持つ水素、窒素、天然ガスなどの気体の液化を可能にします。


・従来、ヒステリシスを抑制する方法はしばしばMCEの性能を損なうという問題がありました。しかし、今回の手法では局所的な共有結合性[11]の調整に着目することで、この従来のトレードオフを克服しました。これにより、より環境に優しい社会を目指した高効率な磁気冷却のための新しい材料設計原理が確立されました。



図2. Gd5Sn2Ge2化合物における高効率な磁気熱量効果(MCE)。(a) 2 Tの磁場下における磁化(M)の温度変化。曲線が開いた部分の面積がエネルギー損失に対応する。(b) Gd5Ge4化合物の断熱温度変化(ΔTad)。(bの上図)では、ΔTadに巨大なMCEが観測されますが、これは反復磁場下では維持されません。これに対し、Gd5Sn2Ge2化合物(bの下図)では、巨大かつ可逆的なMCEを実現しています。


図3. せん断変位を関数とする活性化障壁。Gd5Sn2Ge2化合物の場合、青丸と赤丸はそれぞれ局所極小点と全極小点を示します。Sn合金化後、相転移の活性化障壁ΔEは大幅に低減されます。

今後の展開

環境に優しくエネルギー効率の高い磁気冷却技術にとって、耐久性が高い磁気熱量材料の開発は、炭素排出を最小限に抑えられるため、カーボンニュートラル社会の実現に不可欠です。本研究では、巨大で完全に可逆な磁気熱量効果(MCE)を実現する画期的な材料を開発しました。ここで開発された化合物は、水素や天然ガスといったエネルギーキャリアの磁気液化において、長期運転下での信頼性が重要となる用途で、強力な候補となる材料です。さらに本研究は、巨大なMCEと耐久性との間に長年存在していたトレードオフを克服する新たな材料設計の道を開き、次世代冷却材料の開発を促進・加速するものです。


【用語解説】


[1]磁気熱量効果(Magnetocaloric effect, MCE)
磁場を印加または除去したときに、材料が示す加熱または冷却の応答。


[2]磁気エントロピー変化(Magnetic entropy change, ΔSm)
一定温度下で磁場を変化させたときに生じる、磁気モーメント(磁極のN極-S極の起源)の向きの「無秩序さ(エントロピー)」の変化。


[3]断熱温度変化(Adiabatic temperature change, ΔTad)
外部との熱のやり取りを行わず(断熱的に)磁場を変化させたときに生じる、材料の温度変化。


[4]金属間化合物(Metallic compound)
金属元素を含む異なる元素が特定の組成比で規則正しく結合した固体であり、単なる金属混合物とは異なって明確な組成・結晶構造・物性を示す化合物である。


[5]可逆性(Reversibility)
磁場の印加・除去を繰り返しても、ほぼ同じΔSmおよびΔTadを再現できる能力。高い可逆性は安定した性能と低い運転コストを意味する。


[6]ヒステリシス(Hysteresis)
磁場の印加・除去に対する材料の応答(磁化や構造変化)が遅れる、または経路に依存する現象。グラフ上ではループとして現れ、エネルギー損失や不可逆性を示す。


[7]スラブ間領域(インタースラブ)(Interslab)
Gd₅Ge₄化合物においては、結晶構造の単位格子内に存在する二つの構造的「スラブ(層)」の間に位置する領域または層を指す。


[8]共有結合(Covalent bonding)
隣接する原子が電子を共有するタイプの化学結合。


[9]活性化障壁(Activation barrier)
反応が進むために必要な最低限のエネルギーのこと。相転移では、構造や状態変数の変化(反応経路)に対しての系のポテンシャルエネルギーが変化する。始状態からみた反応経路上のエネルギー障壁の高さを活性化障壁という。


[10]大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。


[11]共有結合性(Covalency)
共有結合の程度または強さ。


本件に関するお問い合わせ先
(本件に関するお問い合わせ先)
NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター グリーン磁性材料グループ 主任研究員
Tang Xin
URL: https://samurai.nims.go.jp/profiles/tang_xin/

NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター グリーン磁性材料グループ グループリーダー
世伯理那仁(せぺり なびど)
Hossein Sepehri-Amin
URL: https://samurai.nims.go.jp/profiles/h_sepehriamin/

NIMS 磁性・スピントロニクス材料研究センター 副センター長
大久保忠勝
URL: https://samurai.nims.go.jp/profiles/ohkubo_tadakatsu/

京都工芸繊維大学 電気電子工学系 教授
三浦良雄
URL: https://www.liaison.kit.ac.jp/researchers_db/introduction/elec_eng_elec/%E4%B8%89%E6%B5%A6%E3%80%80%E8%89%AF%E9%9B%84-2

高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 研究員
小林慎太郎

兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所 教授
大河内 拓雄


(報道・広報について)
NIMS 国際・広報部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
E-mail: pressreleaseml.nims.go.jp
TEL: 029-859-2026 FAX: 029-859-2017

京都工芸繊維大学 総務企画課広報係
〒606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町
E-mail: kit-kisyajim.kit.ac.jp
TEL: 075-724-7016

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〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1丁目1-1
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TEL: 0791-58-2785

<機関窓口(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所)>
兵庫県立大学 播磨理学キャンパス経営部
高度産業科学技術研究課
佐々木正和
E-mail: sasakilasti.u-hyogo.ac.jp
TEL: 0791-58-0249  

Corporate Communication
Technical University of Darmstadt
Dolivostraße 15, 64293 Darmstadt, Germany
E-mail: joerg.feucktu-darmstadt.de
TEL: +49 6151 16 20018

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
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TEL: 03-5214-8404 FAX: 03-5214-8432


(支援事業について)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 グリーンイノベーショングループ
中村亮二
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
E-mail: eratowwwjst.go.jp
TEL: 03-3512-3528


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働く酵素の姿をミリ秒で捉える
―SACLAが拓く新しい時分割タンパク質構造決定法の可能性―


2025年12月19日
大阪医科薬科大学
大阪大学
東北大学
龍谷大学
大阪公立大学
量子科学技術研究開発機構
神戸大学
理化学研究所
高輝度光科学研究センター
京都大学
兵庫県立大学


研究のポイント
◾️酵素の反応過程をミリ秒レベルで可視化することに成功
◾️独自の二液混合装置による時間分解結晶構造解析で、酵素が構造を変化させる仕組みを解明
◾️新しい時分割タンパク質構造決定法として、生命科学研究の可能性を大きく広げると期待


【概要】
 大阪医科薬科大学、大阪大学、東北大学、龍谷大学、大阪公立大学、量子科学技術研究開発機構、神戸大学、理化学研究所、高輝度光科学研究センター、京都大学、兵庫県立大学などから構成される研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)※1施設「SACLA※2を用いた連続フェムト秒結晶構造解析(SFX)※3により、銅含有アミン酸化酵素の触媒過程の可視化に成功しました。本研究では、SACLAが開発を主導した二液混合装置※4が提供されました。本装置を用いることにより、酵素と基質が反応を開始してから数十から数百ミリ秒経過後の、反応時間軸に沿った様々な中間体の構造を決定しました。得られた構造情報から、本酵素が触媒過程を進行させる際に自身の構造を変化させるメカニズムが明らかとなりました。二液混合法によるSFXは汎用性が高く、酵素に加え各種の重要タンパク質が働く際の速い構造変化の追跡にも応用可能です。本成果は、生命科学研究の可能性を大きく広げる画期的なものといえます。

 

本研究は英国科学誌「Nature Communications」に12月18日(木)19時(日本時間)に公開されました。


【論文情報】
雑誌名:Nature Communications
タイトル:Real-time capture of domain movements during copper amine oxidase catalysis by mix-and-inject serial crystallography
著者名:Takeshi Murakawa*, Mamoru Suzuki, Kenji Fukui, Tetsuya Masuda, Eiichi Mizohata, Ikuko Miyahara, Ikuya Kurauchi, Taiki Murakami, Himawari Matsunaga, Yoshiki Montawa, Norie Nakajima, Toshinori Oozeki, Katsuki Sakai, Teikoku Son, Takehiro Higuchi, Tomoko Sunami, Tetsunari Kimura, Kensuke Tono, Tomoyuki Tanaka, Michihiro Sugahara, Toshi Arima, Luo Fangjia, Jungmin Kang, Rie Tanaka, So Iwata, Eriko Nango*, Takehiko Tosha, Takato Yano, Katsuyuki Tanizawa, and Toshihide Okajima*
*は責任著者
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-025-67230-5
なお,本研究は,日本学術振興会科学研究費助成事業,創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム,および物質・デバイス領域共同研究拠点事業の支援を得て行われました。


【研究の内容】
 銅含有アミン酸化酵素は様々な生物種に広く存在し、アミン類をアルデヒドとアンモニアに分解する活性を持っています。この酵素の活性中心には、銅イオンと補酵素トパキノン(TPQ)を含んでおり、ヒトの血清中の本酵素は糖尿病の発症にも関与しています。これまで、本酵素は触媒過程で、補酵素TPQが大きく構造変化することが知られていましたが、どのような仕組みで構造変化が起きるのかその詳細な仕組みは不明なままでした。そこで、この疑問を明らかにするため、研究グループは、微生物由来の銅含有アミン酸化酵素を用いて数μmサイズの微結晶を作成し、SACLAにて二液混合法を用いた時分割SFXを実施しました。酵素微結晶懸濁液と基質溶液の混合からXFEL照射までの時間(遅延時間)が異なる複数のデータセット(22 msから100 msまで計9セット)を取得しました。遅延時間の増加に伴い、補酵素TPQとその周辺残基や水分子の電子密度の形状と占有率が変化していることを観測し、反応時間軸に沿った各反応中間体の構造変化を明確にとらえることに成功しました(図1)。



図1 触媒過程での補酵素TPQの構造変化


 さらに、本酵素の触媒過程での構造変化は活性中心のみで起こると従来は考えられていましたが、基質結合に伴いドメインレベルでの構造変化が起き、これに連動して活性中心での構造変化が進行することが明確になりました(図2)。



図2 触媒過程での銅含有アミン酸化酵素全体の構造変化


基質結合に伴いドメイン2(D2)とドメイン3(D3)が矢印に示す方向に収縮する。本酵素はホモ二量体構造をもちそれぞれのD2、D3で同様の動きがみられる。


 このようなタンパク質全体の僅かな動きを検出することは従来の解析法では困難であり,本研究の大きな成果といえます。


【本研究が社会に与える意義(社会的意義)】
 今回の研究では、酵素の精緻な動きの一端を原子レベルで明らかにしています。酵素科学における重要な研究テーマの一つに、新しい機能性を持つ酵素の分子設計が挙げられますが、今回の成果は、この分野に大きく寄与する可能性があります。一般的に、酵素は多段階の反応ステップを経由し常温常圧で効率良く働きますが、各ステップにおいて素早く最適な構造をとる必要があります。その動きの原理や基質が化学変化した中間体の構造を理解することは、各種の有用酵素の設計・開発にも大きな進展をもたらすと期待されます。


【研究者のコメント】
 高品質の微結晶を大量に得ることは非常に困難でしたが、その苦労のかいあって、想像以上に多くの知見が得られました。二液混合法を用いた時分割SFXは技術的には困難な課題も伴いますが、その原理から多くの酵素反応の適用が可能であり、今回の成果は、多くの酵素科学者にとっての夢である酵素反応のflipbook(パラパラマンガ)作りへの重要な第一歩といえます。


【発表者】
(所属・役職等は全て研究当時のもの)
 村川武志:大阪医科薬科大学 医学部 助教
 鈴木 守:大阪大学 蛋白質研究所 准教授
 福井健二:大阪医科薬科大学 医学部 助教
 桝田哲哉:龍谷大学 農学部 教授
 溝端栄一:大阪大学 大学院工学研究科 講師
 角南智子:量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所 主幹研究員
 登野健介:高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 チームリーダー
 南後恵理子:東北大学 多元物質科学研究所 教授,理化学研究所 放射光科学研究センター チームリーダー
 當舎武彦:兵庫県立大学大学院 理学研究科 教授
 矢野貴人:大阪医科薬科大学 医学部 教授
 谷澤克行:大阪大学 産業科学研究所 招へい教授
 岡島俊英:大阪大学 産業科学研究所 准教授


【用語説明】


※1 X線自由電子レーザー(XFEL,X-ray Free Electron Laser)
X線領域におけるレーザーのことであり、近年の加速器技術の発展によって実現した。大型放射光施設SPring-8(スプリングエイト)などの従来の放射光源と比較して、10億倍もの高輝度のX線がフェムト秒(1,000兆分の1秒)の時間幅を持つパルス光として出射される。この高い輝度を活かし、数マイクロメートル程度の小さな結晶を用いたタンパク質の原子分解能の構造解析に利用されている。また、フェムト秒パルスの特性を活かし、X線照射による試料損傷が顕在化する前の構造を解析することが可能であり、鉄原子を含む酵素など、損傷が顕著な試料の構造解析に利用されている。


※2 SACLA(SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser)
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本ではじめてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成しSACLA(サクラ)と命名された。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1とコンパクトであるにもかかわらず、0.1 nm以下という世界最短クラスの波長のレーザー生成能力を持つ。高い空間コヒーレンス、短いパルス幅、高いピーク輝度を備えたX線領域のレーザーを発生させる。


※3 連続フェムト秒結晶構造解析(SFX,Serial Femtosecond Crystallography)
多数の微結晶を含む液体などをインジェクター(試料輸送装置)から噴出しながら、X線レーザーを照射し結晶の構造を解析する手法。配向の異なる多数の微結晶からの回折イメージを連続的に収集する。結晶中の分子の微細な動きを高い時間・空間分解能で観察することが可能となる。本研究では、数万枚のイメージデータからタンパク質の立体構造を決定し、反応中間体のスナップショットを構築した。


※4 二液混合装置(二液混合時分割SFX)
酵素微結晶が懸濁した溶液と基質溶液(あるいはリガンド溶液など)をマイクロ流路中で迅速に混合することにより反応を開始し、直径50~100 μm程度のキャピラリー型インジェクターより吐出したストリーム状の混合液に対してXFEL照射を行う手法、またはそのための装置。本手法は、技術的には溶液実験で従来用いられてきたストップトフロー法(正確にはその原型である連続フロー法)を応用したものであり、混合からXFEL照射までの時間(遅延時間)を変えることにより、反応時間軸に沿った様々な中間体結晶の回折測定が可能となる。本手法は原理的には比較的シンプルであり、汎用性も高く各種酵素反応の追跡に応用可能である。今回用いられたキャピラリー型インジェクターの場合は、現時点においては大量の試料を必要とするという難点があり、液滴を用いた手法など他の方法も開発が行われている。


お問い合わせ先
(研究内容全般について)
大阪医科薬科大学 医学部
助教 村川 武志

大阪大学 産業科学研究所
准教授 岡島 俊英

(SACLAでのSFXについて)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 南後 恵理子

(広報担当)
大阪医科薬科大学 総務部 企画・広報課
TEL: 072-684-6817 FAX: 072-684-7100
E-mail:hojin-kohoompu.ac.jp

大阪大学 産業科学研究所 広報室
TEL: 06-6879-8524 FAX: 06-6879-8524
E-mail: presssanken.osaka-u.ac.jp

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
E-mail:press.tagengrp.tohoku.ac.jp

龍谷大学 農学部 教務課
TEL: 077-599-5601
E-mail:agrad.ryukoku.ac.jp

理化学研究所 広報部 報道担当
TEL: 050-3495-0247
E-mail:ex-pressml.riken.jp

兵庫県立大学 播磨理学キャンパス 経営部 総務課
TEL:0791-58-0101(内線212)
E-mail:kouki_kanagawaofc.u-hyogo.ac.jp

量子科学技術研究開発機構 国際・広報部 国際・広報課
Tel: 043-206-3026
Email: infoqst.go.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。

お問い合わせ先
(研究内容全般について)
大阪医科薬科大学 医学部
助教 村川 武志

大阪大学 産業科学研究所
准教授 岡島 俊英

(SACLAでのSFXについて)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 南後 恵理子

(広報担当)
大阪医科薬科大学 総務部 企画・広報課
TEL: 072-684-6817 FAX: 072-684-7100
E-mail:hojin-kohoompu.ac.jp

大阪大学 産業科学研究所 広報室
TEL: 06-6879-8524 FAX: 06-6879-8524
E-mail: presssanken.osaka-u.ac.jp

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
E-mail:press.tagengrp.tohoku.ac.jp

龍谷大学 農学部 教務課
TEL: 077-599-5601
E-mail:agrad.ryukoku.ac.jp

理化学研究所 広報部 報道担当
TEL: 050-3495-0247
E-mail:ex-pressml.riken.jp

兵庫県立大学 播磨理学キャンパス 経営部 総務課
TEL:0791-58-0101(内線212)
E-mail:kouki_kanagawaofc.u-hyogo.ac.jp

量子科学技術研究開発機構 国際・広報部 国際・広報課
Tel: 043-206-3026
Email: infoqst.go.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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複数元素置換で鉄酸ビスマスに新しい機能を付与
―コンデンサと磁石の性質に加え、室温での負熱膨張を発現―


2025年11月28日
東京科学大学
神奈川県立産業技術総合研究所
名古屋工業大学
高輝度光科学研究センター
京都大学
科学技術振興機構(JST)


【ポイント】

○ ペロブスカイト型酸化物鉄酸ビスマスのビスマス・鉄の両方を異種元素で置換。
○ 強誘電性と強磁性が共存するため、低消費電力の次世代磁気メモリへの応用に期待。
○ 温めると縮む、負熱膨張も発現。


東京科学大学(Science Tokyo) 物質理工学院 材料系の畑山華野大学院生、三宅潤大学院生、総合研究院の東正樹教授、西久保匠特定助教(兼 神奈川県立産業技術総合研究所 常勤研究員)、重松圭助教らの研究グループは、ペロブスカイト型(用語1)酸化物ビスマスフェライト(BiFeO3)のビスマスをカルシウムで、鉄をルテニウムやイリジウムで置換すること、スピンの並び方が変化して強磁性(用語2)強誘電性(用語3)が共存することを明らかにしました。さらに、強誘電相から体積の小さい常誘電相への転移温度が劇的に低下し、室温近傍の温度で負熱膨張(用語4)が生じることも見いだしました。
今回開発した物質は強磁性と強誘電性が相関することから、新しい原理に基づく、低消費電力かつ高速アクセスの次世代磁気メモリ開発につながると期待されます。また、熱膨張が引き起こす位置ずれや異種材料接合界面の剥離といった問題の解決につながる負熱膨張材料としての利用も期待されます。
本研究には、東京科学大学(Science Tokyo)物質理工学院 材料系の小野大樹大学院生(研究当時)、塩野裕介大学院生、若崎翔吾大学院生、総合研究院のLee Koomok(イ・クモク)日本学術振興会外国人特別研究員、Hena Das(ヘナ・ダス)特任准教授(兼 神奈川県立産業技術総合研究所 常勤研究員)、山本隆文特定教授(兼 京都大学大学院理学研究科教授)、名古屋工業大学の尾上智子派遣職員、物理工学類の壬生攻教授、高輝度光科学研究センターの河口彰吾主幹研究員が参加しました。
本研究成果は、11月28日付(現地時間)の「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。

論文情報
雑誌名:Journal of the American Chemical Society
題名:Achieving Canted-spin Weak Ferromagnetism and Negative Thermal Expansion in A- and B-site Substituted Bismuth Ferrite
著者:Kano Hatayama, Jun Miyake, Daiki Ono, Yusuke Shiono, Takumi Nishikubo, Koomok Lee, Shogo Wakazaki, Hena Das, Kei Shigematsu, Tomoko Onoue, Ko Mibu, Shogo Kawaguchi, Takafumi Yamamoto and Masaki Azuma
DOI:10.1021/jacs.5c12255


●背景

AIやクラウドの普及による情報処理量の爆発的な増大に伴い、情報機器の電力消費増加が問題になる中で、低消費電力・不揮発性の次世代メモリデバイスへの要求が高まっています。その材料として注目されているのが、磁性(強磁性あるいは反強磁性)と強誘電性を併せ持つマルチフェロイック物質(用語5)です。磁化と強誘電性の相関が十分に強いマルチフェロイック物質を用い、電場によって磁化(N極-S極の向き)方向を反転することができれば、不揮発性・高安定性という現在の磁気メモリの特徴を生かしつつ、低消費電力で駆動する簡易な素子構造を持つ次世代磁気メモリを実現できると期待されます。これまでに東教授らのグループは、反強磁性(用語6)強誘電体の鉄酸ビスマス(BiFeO3)の鉄を一部コバルト(Co)で置換すると、隣り合うスピン(原子レベルのN極-S極に対応)の向きが反平行からずれることで、電気分極に直交した弱強磁性(用語7)の自発磁化を持つこと、電場によって分極を反転した際に磁化を反転できることを報告し、住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点において、メモリデバイスの開発を進めていました。しかしながら、保磁力(用語8)が低く、磁気情報の安定性に課題がありました。
一方で、光通信や半導体製造など、精密な位置決めや部材の寸法管理が要求される局面では、わずかな熱膨張が大きな問題になります。そこで、温度が上昇すると収縮するという、“負の熱膨張”を持つ物質によって、構造材の熱膨張を補償(キャンセル)することが試みられています。 同研究グループは負熱膨張材料BiNi1-xFexO3(鉄をニッケル(Ni)で置換したBiFeO3、BNFOと表記、xは0と0.5の間の任意の数)を開発、日本材料技研株式会社からBNFOの商品名で市販していますが、合成に人造ダイヤモンドと同様の高圧が必要で、価格が高いことが問題でした。


●研究成果

今回の研究では、強誘電性と強磁性を併せ持つとともに、負の熱膨張性も有する材料を開発しました。具体的には、高圧合成の手法を用いてBiFeO3のAサイトのビスマス(Bi)をカルシウム(Ca)で、Bサイトの鉄をルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)で等量置換すると、弱強磁性の出現を阻んでいたスピンサイクロイド変調構造(用語9)が消失して自発磁化が出現することを、磁化測定とメスバウアー分光(用語10)で明らかにしました(図1)。鉄をコバルトで置換した場合に比べて保磁力は4倍程度に上昇しており、次世代磁気メモリに応用した際にデータの安定性を改善できると期待できます。
また、大型放射光施設SPring-8(用語11)(本研究で使用したBL名:BL02B2、BL13XU)の放射光X線回折実験(用語12)で結晶構造変化を調べたところ、体積の小さい常誘電相への転移温度がBiFeO3の1103 K(約830℃、Kは絶対温度の単位であるケルビン)から劇的に低下しており、Bi0.85Ca0.15Fe0.85Ir0.15O3では室温近傍で1.77%もの体積負熱膨張を示すことが分かりました。負熱膨張は、卑金属であるジルコニウム(Zr)を用いたBi0.85Ca0.15Fe0.85Zr0.15O3でも観測されました(図2)。今回見いだした物質の母物質であるBiFeO3は常圧下で合成可能なことから、今後の合成法の改善によって、安価で高性能な負熱膨張材料となることが期待されます。



図1:鉄酸ビスマス(左)と、A-Bサイト元素置換鉄酸ビスマス(右)の磁気構造の模式図。鉄酸ビスマスでは右に進むにつれてスピンの方向が一回転するサイクロイド変調があるため、スピンの磁化は打ち消し合い自発磁化は現れない。一方、元素置換鉄酸ビスマスではスピンが傾斜しているため、磁化は打ち消し合わずに電気分極に直交した自発磁化が現れる。



図2:A-Bサイト元素置換鉄酸ビスマスBi1-xCaxFe1-xMxO3 (M = Ru, Ir, Zr)の低温相、高温相、平均の格子体積(青・赤・緑のプロット)、高温相の分率(黒のプロット)。緑色のプロットで示された平均格子体積の変化から、温めると体積が縮む負熱膨張が起きていることが分かる。

●社会的インパクト

強磁性と強誘電性が共存するマルチフェロイック物質は、次世代メモリデバイス材料として期待されています。また、負熱膨張材料は、半導体などの精密加工現場での位置決めのズレや、異種材料接合界面での剥離といった熱膨張問題の解決につながるため世界的に研究が活発化しており、日本が強みを持つ材料です。
ペロブスカイト酸化物はこれらの他にも超伝導性、巨大磁気抵抗効果、イオン伝導など、多彩な機能を持つため、盛んに研究されています。Aサイト、Bサイトの両方に元素置換を行う今回の物質設計指針は、他の機能性材料の創出にも用いることができると期待されます。


●今後の展開

鉄酸ビスマスへのA-Bサイト両置換による保磁力増大という今回の発見はデータ記録の安定性につながるため、今後は半導体製造工程で使用される微細加工技術を駆使した素子作成に取り組み、次世代の低消費電力不揮発性磁気メモリ素子の実現を目指します。また、水熱合成法などの安価な合成法を確立することで、負熱膨張材料としての応用も目指します。


●付記

本研究の一部は、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「非晶質前駆体を用いた高機能性ペロブスカイト関連化合物の開発(研究代表者:東正樹 東京科学大学教授、課題番号:JPMJCR22O1)」、地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 実用化実証事業「次世代半導体用エコマテリアルグループ(東正樹グループリーダー)」、日本学術振興会 科学研究費助成事業(課題番号:JP23KJ0919、JP24K17509、JP24H00374)、国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出プロジェクトなどの支援のもと、住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点において実施されました。


【研究者プロフィール】

東 正樹(アズマ マサキ) Masaki Azuma
東京科学大学 総合研究院
自律システム材料学研究センター/フロンティア材料研究所 教授
研究分野:固体化学


【用語説明】


(1)ペロブスカイト型
一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。


(2)強磁性
磁場を印加されていない状態でも磁化を持ち、かつ外部磁場の向きに応じて磁化の向きを可逆的に反転できる性質のこと。


(3)強誘電性
電界(電圧を、その電圧が印加されている試料の厚みで割ったもの)を印加されていない状態でも電気分極(物質中で陽イオンと陰イオンの重心がずれていることから生じる、電荷の偏り)を持ち、かつ外部電界の向きに応じて電気分極の向きを可逆的に反転できる性質のことを強誘電性と呼ぶ。


(4)負熱膨張
通常の物質は温めると体積や長さが増大する、正の熱膨張を示す。しかし、一部の物質は温めることで可逆的に収縮する。こうした性質を負の熱膨張と呼び、ゼロ熱膨張材料を開発する上で重要である。


(5)マルチフェロイック物質
一般的には、複数の強的秩序を有する物質のことを言う。狭義では、強磁性と強誘電性の二つの強的秩序を有する物質を指す。


(6)反強磁性
隣り合う電子のスピンが互いに逆方向を向いて整列した状態を反強磁性状態と呼ぶ。


(7)弱強磁性
反強磁性体において、スピンが完全には反並行にならず、わずかに傾いた状態を指す。磁化は完全には打ち消されないため、自発磁化が現れる。


(8)保磁力
磁化された磁性体を磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の強さ。


(9)スピンサイクロイド変調構造
ある方向にスピンが少しずつ回転していくようなスピンの配列。そのスピンベクトルの先端をつなぐとサイクロイド曲線になる。


(10)メスバウアー分光
物質中の原子核によるガンマ線の吸収スペクトルを通じて、原子核を取り囲む電子の状態を探る実験手法。固体中の鉄の局所的な価数状態や磁気的状態の評価にきわめて有効である。


(11)大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁場によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。


(12)放射光X線回折実験
物質の構造を調べる方法の一つ。放射光X線を試料に照射し、回折強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。


本件に関するお問い合わせ先
(研究に関すること)
東京科学大学 総合研究院
自律システム材料学研究センター/フロンティア材料研究所 教授
東 正樹

神奈川県立産業技術総合研究所 次世代半導体用エコマテリアルグループ 常勤研究員
西久保 匠

名古屋工業大学 物理工学類 教授
壬生 攻

高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 主幹研究員
河口 彰吾

京都大学 大学院理学研究科 教授
山本 隆文


(KISTEC実用化実証事業「次世代半導体用エコマテリアルグループ」に関すること)
地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部
Email:rep-kenkyukistec.jp
TEL:044-819-2034


(JST事業に関すること)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
安藤 裕輔
Email:crestjst.go.jp
TEL:03-3512-3531 FAX:03-3222-2066


(報道取材申し込み先)
東京科学大学 総務企画部 広報課
取材申し込みページ:https://www.isct.ac.jp/ja/001/media
Email:mediaadm.isct.ac.jp
TEL:03-5734-2975 FAX:03-5734-3661

高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課
Email:kouhouspring8.or.jp
TEL:0791-58-2785

名古屋工業大学 企画広報課
Email:pradm.nitech.ac.jp
TEL:052-735-5647

京都大学 広報室 国際広報班
Email:commsmail2.adm.kyoto-u.ac.jp
TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094

科学技術振興機構 広報課
Email:jstkohojst.go.jp
TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432


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西久保 匠

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河口 彰吾

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変動電圧に強い酸化マンガン水電解触媒の開発
-揺らぎの大きい自然エネルギーを用いた水素製造に貢献-


2025年10月20日
理化学研究所


理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター 生体機能触媒研究チームの中村 龍平 チームディレクター、李 愛龍 研究員(研究当時)らの国際共同研究グループは、水の電気分解[1]の電圧が変化する環境においても、長期的に安定して動作するマンガン酸化物触媒[2]を開発しました。本研究成果は、再生可能エネルギー由来の不安定な電力を活用した水素製造技術の開発に貢献すると期待されます。

太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、環境負荷の少ない持続可能な電力源として注目されています。しかし、天候や時間帯により出力電圧が秒単位から時間単位で大きく変動するという課題があります。このような不安定なエネルギーを用いて水の電気分解を行うためには、変動電圧下でも安定して動作する電解触媒の開発が不可欠です。

国際共同研究グループはこの課題に対し、酸化マンガン[3]を電気分解の陽極(酸素発生触媒[4])として使うことを考えました。特に、マンガンの酸化還元反応[5]を巧みに利用することで、触媒自身が繰り返し再生される反応経路を導入し、「自己修復型」の触媒として機能させることに成功しました。その結果、電圧が1.68~3.00Vの範囲で繰り返し変動する過酷な条件下でも、2,000時間以上にわたって水の電気分解を続けられることを実証しました。

本研究は、反応経路設計に基づく「自己修復型」電解触媒という概念を提示し、変動する再生可能エネルギーから水素などの化学燃料を高効率で製造する次世代電解技術の実現に貢献すると期待されます。

本研究は、科学雑誌『Nature Sustainability』オンライン版(10月20日付:日本時間10月20日)に掲載されました。

論文情報
著者名:Ailong Li, Hideshi Ooka, Shuang Kong, Kiyohiro Adachi, Yuchen Zhang, Kazuna Fushimi, Satoru Hamamoto, Masaki Oura, Sun Hee Kim, Daisuke Hashizume, Ryuhei Nakamura
タイトル:"Oxygen evolution electrocatalysis resilient to voltage fluctuations"
雑誌名:Nature Sustainability, 10.1038/s41893-025-01665-y



自己修復経路を導入した水電解触媒


背景

現在、環境負荷の低い水素製造技術として電気分解が注目されています。太陽電池や風力発電など、再生可能エネルギーによる電力を使って電気分解を行えば、化石燃料を使わずに水素をつくることが可能となります。

しかし、再生可能エネルギーの電力は常に安定しているわけではなく、天候などの影響で出力が変動します。例えば、太陽が陰ったり、風がやんだりすると、電圧供給が下がります。逆に、太陽が強く照り過ぎたり、風が強く吹き過ぎたりすると電圧供給が過剰となります。特に、電圧が大き過ぎると、従来の多くの触媒は分解してしまい、性能が低下してしまうという課題がありました。

このような背景の下、国際共同研究グループは、触媒の酸化分解と同時に自己修復が起こる「自己修復型」の反応経路を設計するというアプローチにより、変動条件下でも長寿命で安定的に機能するマンガン酸化物触媒の開発に取り組みました。


研究手法と成果

今回、国際共同研究グループはマンガンの酸化還元特性を最大限に活用する(図1)ことで、変動電圧下でも高い耐久性を示すマンガン酸化物触媒を開発することに成功しました。水の電気分解では、水素と酸素を別々の電極でつくるため、2種類の触媒が必要になります。特に、中村チームディレクター、李研究員らのこれまでの研究から、酸化マンガンは酸素をつくる触媒として優れていることが分かっていました注1、2)。しかし、酸化マンガンでも2V以上の電圧では溶解してしまい(図1のオレンジの反応)、貴金属触媒である酸化イリジウムと比べて、材料寿命が短いことが課題となっていました。

溶出による触媒劣化を抑制するため、国際共同研究グループは一度溶けたマンガンイオン(図1のオレンジ)が触媒上に再生する反応(図1の緑の反応)を導入しました。具体的には、リン酸を添加することで、Mn7+が電極上のMn2+と反応して、Mn3+を生成する反応を導入しました。再生したMn3+は触媒反応の中間体として、再び電気分解に寄与することができます。これによって、触媒が一時的に溶けても再生するメカニズムの導入に成功しました。



図1 酸化マンガンの反応機構


(A)電圧変動がない場合の反応機構。(B)過剰な電圧を加えた場合の反応機構。(C)自己修復経路を導入した場合の反応機構。矢印は、青が水の電気分解、オレンジは触媒溶出、緑は触媒修復に相当する反応経路を表す。


その効果を端的に示すのが図2の試験です。国際共同研究グループは再生可能エネルギー由来の変動電圧を模して、マンガン酸化物触媒に3.00Vと1.68Vの電圧を交互に加えました。酸化マンガンは1.68Vでは溶けませんが、3Vでは溶けます。このため、3時間おきに8分間、3Vの電圧をかける操作を繰り返すと、触媒は少しずつ溶けてしまい、200回ほどで触媒機能が90%以上失われます。しかし、リン酸がある条件だと、一度溶けたマンガンイオンも電極上に再生します。このため、3Vの電圧を680回以上かけても初期特性の90%以上を保つことが可能となりました。



図2 修復経路の有無による触媒特性の変化


マンガンの溶出量(A:リン酸なし、B:リン酸あり、縦軸はマンガンイオン濃度)と電解電流(C:リン酸なし、D:リン酸あり)の経時変化。A、Bではオレンジの背景の時間に3V、それ以外の時間には1.68Vの電圧を加えた。リン酸なしだと一度溶けたマンガンイオンは溶液中に蓄積する(A)が、リン酸共存下ではマンガン酸化物触媒が自己修復し、溶液中のマンガンイオンが減少する(B)。これにより、リン酸なしの場合は200回目のパルス(変動)の時点で触媒活性は90%以上失われる(C)のに対し、リン酸がある場合は680回目のパルスでも初期活性の90%を維持することが可能となった(D)。


 今回の研究では、マンガンだけでなく、コバルトや鉄、ニッケルなど、他の3d遷移金属由来の酸化物でも、変動電圧に対する耐久性を測定しました。しかし、酸化マンガン以外の触媒は、リン酸を入れても50回程度の変動で完全に活性がなくなってしまいました。このことから、電圧が変動する環境下において、マンガンの特異な触媒機能が明らかになりました。

注1)2019年3月19日プレスリリース「水を電気分解し続けるマンガン触媒の動作条件を発見
注2)2024年1月17日プレスリリース「非貴金属触媒によるPEM型水電解


今後の期待
本研究成果は、反応経路設計に基づき「自己修復型」の電解触媒を開発することで、再生可能エネルギー由来の変動電力を活用した高効率な水素製造など次世代電解技術の実現に貢献すると期待されます。

また、今回の研究は、自然界の生存戦略を理解する上でも興味深い成果です。酸素発生反応は光合成の中心的な反応で、この反応を担う酵素ではマンガンが活性部位[6]に使われています。一方で同じ反応を担当する酵素でも活性部位の金属が異なることがよくあります。このため、光合成でマンガンだけが選ばれた理由は古くから研究されてきました。変動する自然環境における触媒の分解が避けられない場合、今回の研究で唯一触媒の再生能力を示したマンガンが、最有力候補として残った可能性が考えられます。

この成果は、国際連合が定めた17の目標「持続可能な開発目標(SDGs)[7]」のうち、「7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」に貢献するものです。


補足説明


1. 水の電気分解
電気エネルギーを用いて水を水素と酸素に分解する反応(2H2O→2H2+O2)のこと。再生可能エネルギー由来の電力と水から水素をつくることが可能となる上、副生成物として酸素しか発生しないため、環境負荷の低い水素製造技術として近年盛んに研究されている。


2. 触媒
反応を促進する一方で、自分自身は消費されない物質のこと。繰り返し使うことができるため、化学反応の環境負荷を下げる方法として注目されている。


3. 酸化マンガン
本研究における酸化マンガンとは、二酸化マンガン(MnO2)のこと。他にもMnOやMn2O3など、異なる組成のものがあり、触媒特性も異なる。


4. 酸素発生触媒
水を水素と酸素に分解する電気分解反応のうち、酸素を発生する反応(2H2O→O2+4H++4e-)を担当する触媒のこと。関連して、水素を発生する触媒は水素発生触媒という。電気分解を水素製造技術として活用するには、特に酸素発生触媒の電圧効率や材料寿命の改善が必要とされている。


5. 酸化還元反応
化学物質の酸化状態が変化する反応の総称。今回の研究において、Mn2+がMn3+やMn4+、Mn7+に変化する反応はすべて酸化還元反応である。


6. 活性部位
酵素の構造のうち、実際に化学反応が起きる場所のこと。光合成酵素では、マンガン原子がちょうど4個使われている。これに対し、鉄(1原子)や鉄(2原子)、鉄とニッケル(1原子ずつ)など、活性部位に複数の構造が知られている酵素反応もある。


7. 持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17の目標、169のターゲットから構成され、発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいる(外務省ホームページから一部改変して転載)。


国際共同研究グループ
理化学研究所
環境資源科学研究センター 生体機能触媒研究チーム
チームディレクター 中村 龍平(ナカムラ・リュウヘイ)
(東京科学大学 地球生命研究所 教授、同大学 物質理工学院 応用化学系 教授)
研究員(研究当時)李 愛龍(リ・アイロン)
研究員 大岡 英史(オオオカ・ヒデシ)
研究員(研究当時)孔 爽(コウ・ソウ)
人材派遣職員 伏見 和奈(フシミ・カズナ)
国際プログラム・アソシエイト 張 雨晨(チャン・ユチェン)
(中国科学技術大学 博士課程学生)
創発物性科学研究センター 物質評価支援チーム
チームディレクター 橋爪 大輔(ハシヅメ・ダイスケ)
基礎科学特別研究員 足立 精宏(アダチ・キヨヒロ)
放射光科学研究センター 軟X線分光利用システム開発チーム
チームリーダー 大浦 正樹(オオウラ・マサキ)
特別研究員 濵本 諭(ハマモト・サトル)

韓国基礎科学支援研究院
主任研究員 スンヒ・キム(Sun Hee Kim)
(韓国中央大学校 教授)


研究支援
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成制度基盤研究(A)「触媒反応ネットワークの制御による持続的酸素発生触媒の創生(研究代表者:中村龍平、22H00339)」、科学技術振興機構(JST)革新的GX技術創出事業GteX「グリーン水素製造用革新的水電解システムの開発(研究代表者:高鍋和広、JPMJGX23H2)」、文部科学省データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト「再生可能エネルギー最大導入に向けた電気化学材料研究拠点(DX-GEM、研究代表者:杉山正和、JPMXP1122712807)」の助成を受けて行われました。

また、シンクロトロン放射光実験は大型放射光施設「SPring-8」のビームラインBL14B2(XAFS)、BL36XU(XAFS)、BL17SU(XPS)およびBL44B2(PXRD)で評価しました(高輝度光科学研究センター:2021B1856、2025A1386、理研:20250032)。放射光測定に際し、大渕博宣、金子拓真、宇留賀朋哉、加藤健一、繁田和也の各氏のご支援を受けました。また、電顕測定、EPR測定においてMohamed Arfaoui氏、Daiha Shin氏のご支援を受けました。


発表者・機関窓口
理化学研究所
環境資源科学研究センター 生体機能触媒研究チーム
チームディレクター 中村 龍平(ナカムラ・リュウヘイ)
研究員(研究当時)李 愛龍(リ・アイロン)

発表者

理化学研究所 広報部 報道担当
 Tel: 050-3495-0247
 Email: ex-pressml.riken.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。

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研究員(研究当時)李 愛龍(リ・アイロン)

発表者

理化学研究所 広報部 報道担当
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ブラックホールに落ち込むプラズマの構造が明らかに!
― NASAの気球に世界最大の日本製の望遠鏡を搭載―


2025年11月14日
広島大学
大阪大学
愛媛大学


【本研究成果のポイント】

1. ブラックホールの極限環境を、X線(硬X線注1)観測では新しい「偏光注2」という手法から解き明かしました。


2. 気球搭載型望遠鏡 XL-Calibur(エックスエル-カリバー)注3により、地球からおよそ7000光年離れたブラックホール「はくちょう座 X-1 (Cygnus X-1)注4からの15-60 keV(1.5-6万電子ボルト)の硬X線を観測しました。
(YouTube動画「NASA XL-CALIBUR Launch」で検察 NASA XL-CALIBUR Launch


3. 日本製の世界最大のX線集光ミラー注5などにより、従来よりも20倍も高い感度で観測データを取得することに成功しました。


4. これまでブラックホール周辺にコロナ(高温のプラズマ領域)が存在することが知られていましたが、その形状を決定できる観測結果がありませんでした。今回のXL-Caliburの観測結果は、直径125 kmのブラックホールの中心から2000 km以内で明るく輝くコロナが、ブラックホールから数十億kmにわたって噴出する巨大なプラズマジェットと垂直方向に整列している(伴星から奪った物質が落ち込む円盤に沿って平べったい構造をしている)ことを示します。


5. 本研究成果により、ブラックホール近傍のコロナプラズマの構造を制限することができ、ブラックホール近傍の物理過程の理解に重要な手がかりを提供しました。


広島大学大学院先進理工系科学研究科の高橋弘充准教授、大阪大学大学院理学研究科の松本浩典教授、JAXA宇宙科学研究所の前田良知助教、愛媛大学大学院理工学研究科の粟木久光教授らを含む気球搭載型望遠鏡 XL-Calibur国際研究チームは、ブラックホールに物質が落ち込む前にどのように渦を巻き、莫大なエネルギーを放出するのか、その環境をより深く理解するために、硬X線放射の「偏光」観測を実施しました。
X線偏光観測ミッションXL-Caliburは、2024年7月にスウェーデンからカナダへ向けた約6日間の長距離気球フライト中に、ブラックホールX線連星である「はくちょう座 X-1」を観測しました。XL-Caliburの観測により、「はくちょう座 X-1」から放射される15-60 keVのX線について、偏光情報(偏光度と偏光角)をこれまでよりも約20倍も高い感度で観測することに成功し、最も精密な制約を得ることができました。XL-Caliburの結果を、直径125 kmのブラックホールの中心から2000 km以内で明るく輝くプラズマ領域(コロナ)が、ブラックホールから数十億kmにわたって噴出する巨大なプラズマジェットと垂直方向に整列していることを示しています。この結果から、コロナは、伴星から奪った物質が渦状に落ち込む円盤に沿って、平べったい構造をしていることが明らかになりました。
今後は、改良した気球実験や人工衛星によるX線の偏光・測光・分光の観測結果、理論研究から、様々な質量のブラックホール(太陽質量の数倍から100億倍もの超巨大サイズ)において、ブラックホールに吸い込まれつつある物質が重力の影響をどのように受けているかが明らかにされ、中心に存在するブラックホールの特性(自転速度)やブラックホールが及ぼす相対論的な効果(時空のゆがみ)などの理解が進むと期待されます。
本ミッションでは、日本の研究者が装置の中核となるX線集光ミラーの製作・較正を担当しました。X線集光ミラーの反射率と結像性能を較正の際には、大型放射光施設SPring-8(BL20B2)の20-70 keVの硬X線を利用しました。こうして日本の技術力が国際観測の鍵を担った形となっています。

論文情報
雑誌名:The Astrophysical Journal
題名:XL-Calibur Polarimetry of Cyg X-1 Further Constrains the Origin of its Hard-state X-ray Emission
著者:Hisamitsu Awaki, Matthew G. Baring, Richard Bose, Jacob Casey, Sohee Chun, Adrika Dasgupta, Pavel Galchenko, Ephraim Gau*, Kazuho Goya, Tomohiro Hakamata, Takayuki Hayashi, Scott Heatwole, Kun Hu*, Daiki Ishi, Manabu Ishida, Fabian Kislat, Mózsi Kiss*, Kassi Klepper, Henric Krawczynski, Haruki Kuramoto, Lindsey Lisalda, Yoshitomo Maeda, Hironori Matsumoto, Shravan Vengalil Menon, Aiko Miyamoto, Asca Miyamoto, Kaito Murakami, Takashi Okajima, Mark Pearce, Brian Rauch, Nicole Rodriguez Cavero, Kentaro Shirahama, Sean Spooner*, Hiromitsu Takahashi, Keisuke Tamura, Yuusuke Uchida, Kasun Wimalasena, Masato Yokota, Marina Yoshimoto
*責任著者
所属:
  a 広島大学 大学院先進理工系科学研究科(高橋弘充、呉屋和保、横田雅人)
  b 大阪大学 大学院理学研究科(松本浩典、袴田知宏、倉本春希、宮本愛子、村上海都、白濱健太郎)
  c JAXA宇宙科学研究所(石田学、前田良知、内田悠介、伊師大貴、宮本明日香)
  d 愛媛大学 大学院理工学研究科(粟木久光、善本真梨那)
DOI:10.3847/1538-4357/ae0f1d


【背景】

ブラックホールに降着し(降り積もり)吸い込まれる物質は、強い重力によって非常に高温に熱せられ(約1000万度)、X線で明るく輝いています。そのため、X線観測によって、ブラックホール近傍での降着物質の物理状態を明らかにすることができれば、中心に存在するブラックホール自身の物理量や、強い重力場における一般・特殊相対論的な効果も観測することができると期待されています。しかし、これまでの時間変動(測光)やエネルギー(分光)の観測だけでは、降着物質がどのような状態にあるのか長年にわたって議論が平行線をたどっていました(遠方にあるため画像では「点」にしか見えず、構造は調べられていません)。
偏光観測は、画像、時間変動、エネルギーの測定とは異なり、高エネルギー粒子が放射する光子の偏光(電場の振動方向が偏っている)情報から、物質から直接届いたのか、どこかで反射・散乱されてきたのかという幾何構造を推定することができます。電波や可視光では一般的な手法ですが、X線やガンマ線の帯域では技術的な困難から、これまでに硬X線の帯域で偏光情報を取得できたのは、我々が2016年に実施したPoGO+気球実験だけでした(ただし上限値で制限がかけられたのみ)。


【研究成果の内容】

2024年7月、日本チームを含む国際共同研究チームは、気球望遠鏡 XL-Calibur を用いた新たな観測により、ブラックホール周辺の極限的な環境を明らかにしました。このミッションは、米国ワシントン大学が主導し、日本からは広島大学、大阪大学、JAXA宇宙科学研究所、愛媛大学などの研究者が世界最大のX線集光ミラーを提供して中心的な役割を果たしています。
観測対象は、地球から約7,000光年の距離にあるはくちょう座X-1(Cyg X-1)。1964年に発見され、天の川銀河で最初に「ブラックホール」であると広く受け入れられたX線天体です。ブラックホールの質量は太陽の約21倍。ブラックホールの周囲には、落ち込む物質と噴き出す物質が以下の3つの構成要素を形成していると考えられています:
 1. 降着円盤:近傍の恒星から奪った物質が円盤状に渦を巻いて落ち込む。
 2. コロナプラズマ:降着円盤からの光にエネルギーを与えて、より高エネルギーにする高温プラズマ。
 3. プラズマジェット(アウトフロー):ブラックホールの自転に伴う時空のねじれと強磁場により、一部の物質が極方向に高速で噴き出す流れ。
XL-Caliburの観測は、特にコロナプラズマ(2番目)の形状と位置、起源に強い制約を与えています。以前のPoGO+の観測では、硬X線の偏光が微弱(偏光度が8.6%以下)であることしか分かっていませんでしたが、今回のXL-Caliburでは感度が約20倍も向上したことにより、偏光度がおよそ5.0%であることが測定することができました。この結果、直径125 kmのブラックホールの中心から2000 km以内で明るく輝くコロナが、ブラックホールから数十億kmにわたって噴出する巨大なプラズマジェットと垂直方向に整列していることが分かりました。
従来の我々のPoGO+実験による観測結果では、コロナがブラックホール近傍100kmに局在するようなコンパクトな形状ではなく、広がって存在していることだけが分かっていました。今回のXL-Calibur実験による観測結果から、広がったコロナの形状は円盤に沿った平べったい構造であることを明らかにすることができました。


【今後の展開】

この情報は、NASAの偏光衛星IXPE(2–8 keVの低いエネルギー)や、JAXAのXRISMなどの分光衛星、さらに最新のコンピュータシミュレーションと組み合わせることで、今後数年でブラックホールおよびその近傍におけるより精密な物理モデルが構築されると期待されています。XL-Caliburチームでは、次は南極からのフライトにより、他のブラックホールや強磁場の中性子星の偏光観測を目指しています。
国際協力で実現した気球実験XL-Calibur国際共同研究チームには、ワシントン大学、ニューハンプシャー大学、大阪大学、広島大学、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)、スウェーデン王立工科大学(KTH)、NASAゴダード宇宙飛行センターおよびワロップス飛行施設など、計13機関以上が参加しています。ミッション代表はワシントン大学の Henric Krawczynski教授。


【参考資料】


図1:2024年7月9日にスウェーデンから放球されたXL-Calibur(エックスエル-カリバー)気球(YouTube動画「NASA XL-CALIBUR Launch」 NASA XL-CALIBUR Launch



図2:翌日(7月15日)に着陸場所を上空から確認した写真(NASA)。無事に気球ゴンドラの回収が済んでおり、次回の南極フライトに向けて準備を進めています。


図3:XL-Caliburによる観測結果。ブラックホール近傍の高温コロナによって放射される硬X線の偏光方向が、電波で観測されている巨大ジェット(白色)と向きが揃っている(平行)ことが分かりました。IXPE衛星による軟X線の観測結果がピンク。


図4:今回判明したコロナの想像図(断面図)。コロナは円盤に沿って平べったい形状をしている(ジェットとは垂直方向に広がっている)ことを明らかにすることができました。



【その他】

本研究は、文部科学省科学研究費補助金(課題番号:19H01908、19H05609、20H00175、20H00178、21K13946、22H01277、23H00117、23H00128)による支援を受けたほか、JAXA小規模計画、SPring-8の支援も受けています。


【用語解説】


注1)硬X線
X線とガンマ線の間のエネルギーをもつ電磁波。今回観測した硬X線のエネルギー帯は15–60 keV(可視光の約1.5万~6万倍のエネルギー)。


注2)偏光
通常の光は色んな方向に電場が振動しています。人工的にはサングラス、自然界では水面での反射などにより、ある特定の方向のみに振動している状況を偏光した光と呼びます。
「偏光度」は偏光している光の割合、「偏光角」はその向きを表します。これらの測定により、ブラックホール近傍で超高温プラズマがどのような形状で暴力的に運動しているのかを知ることができます。また、同様の観測を中性子星や星雲のような他のX線天体に行うことで、宇宙で最も強力な磁場構造の形状を明らかにすることもできのです。


注3)X線を北極圏の上空40km(地球の大気0.3%しかない上空)から観測
天体からのX線は、地球大気で吸収されてしまうため、宇宙(に近い上空)から観測をする必要があります。
研究チームは2024年7月、NASAの直径100mに膨らむ科学気球によって、XL-Caliburを上空40kmの成層圏まで上昇させ、大気の影響をほぼ受けない高度から天体観測を行いました。フライト時間は、スウェーデンからカナダにかけて5.5日間(7月9日から14日)。
人工衛星として打ち上げることができれば、より長い観測時間を得ることができますが、より高い信頼性・確実性が求められるため、世界初を目指す偏光観測のような野心的な検出器を載せるのは難しく、また開発期間も長くなってしまいます。我々は偏光観測に特化した気球実験として開発したことで、複数回のフライトを重ねることで検出器の性能を向上させ、最先端技術の利用しつつ、総重量2トンもの大型の検出器で観測することができました。これの結果が、低コストでありながら、他の人工衛星のミッションに先駆けて信頼性の高い硬X線の偏光観測へと実を結びました。



左上:打ち上げ直前のXL-Calibur気球。右上:打ち上げ直後の気球。下:打ち上げ場のスウェーデンから着陸地カナダまでの5.5日間のフライトの軌跡。(写真やデータはNASAより)


注4)「はくちょう座 X-1」(Cygnus X-1)
1964年に発見され、銀河系で初めて「本物のブラックホール」として広く認められた天体です。このブラックホールは伴星(超巨星)と密接に公転する連星系を形成しているため、ブラックホールX線連星と呼ばれます。もし我々が肉眼でCyg X-1を見ようとすれば、その見かけの大きさは月の幅の2千万分の1しかありません。したがって、直接像を撮れないほど小さな天体の形状を推定するには、従来の測光・分光観測に加え、今回新しく実現した偏光観測が非常に有効なのです。


左:可視光(Digitized Sky Survey)で観測した「はくちょう座X-1」。伴星の超巨星が青白く見える。右:「はくちょう座X-1」の想像図。https://chandra.harvard.edu/photo/2011/cygx1/
左側の中心の暗い部分がブラックホール。右側の青白い星が伴星(超巨星)。赤い円盤が降着円盤。上下に伸びる構造がプラズマジェット。今回の研究対象のコロナプラズマはブラックホールのごく近傍に存在。


注5)X線集光ミラー(日本製で世界最大)
X線を集光するためには、金属表面での全反射や結晶間隔を利用したブラッグ反射が利用されます。(眼鏡のレンズは透過してしまうため使えない)
今回利用したミラーは、213枚のアルミニウムシェルにそれぞれ10〜140層の白金–炭素の二層膜をコーティングしたものです。硬X線は、炭素を透過して、白金と白金の間隔に応じたエネルギーがブラッグ反射して効率良く集光されます。


本件に関するお問い合わせ先
<研究に関すること>
広島大学 大学院先進理工系科学研究科
准教授 高橋 弘充(たかはし ひろみつ)

<広報に関すること>
広島大学 広報室
TEL:082-424-3749
E-mail:kohooffice.hiroshima-u.ac.jp

大阪大学 理学研究科庶務係
TEL: 06-6850-5280
FAX 06-6850-5288
E-mail:ri-syomuoffice.osaka-u.ac.jp

愛媛大学 総務部広報課広報チーム
TEL:089-927-9022
E-mail:kohostu.ehime-u.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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