放射光(X線)で小さなものを観察する大きな2つの施設

高品質単結晶によりIGZOの本質的な電子状態を解明
~次世代ディスプレイの性能向上に新たな指針を提供~


2025年7月9日
東京理科大学
高輝度光科学研究センター


研究の要旨とポイント

➢光フローティングゾーン法により作製された高品質なInGaZnO4(IGZO)単結晶に対して、硬X線光電子分光(HAXPES)実験を行い、バルク固有の電子状態を明らかにしました。
➢これまで結晶中にランダムに存在すると考えられていた酸素欠陥について、In原子の周囲に優先的に形成されていることを発見しました。
➢バンドギャップ内に存在するサブギャップ状態について、伝導帯下端近傍は酸素欠陥に起因する一方、価電子帯上端近傍は結晶性の低下とも密接に関連していることを見出しました。
➢さらなる研究の発展により、次世代ディスプレイや透明エレクトロニクスデバイスの性能向上に向けた新たな設計指針が得られることが期待されます。


東京理科大学 先進工学部 物理工学科の芝田 悟朗助教(研究当時、現日本原子力研究開発機構)、齋藤 智彦教授、宮川 宣明教授、高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 光電子分光計測チームの保井 晃主幹研究員らの共同研究グループは、硬X線光電子分光法(HAXPES)(*1)により、InGaZnO4(IGZO)単結晶の電子状態を解析し、結晶中の酸素欠陥がIn原子の周囲に偏って存在していることを明らかにしました。また、バンドギャップ内に形成されるサブギャップ状態(*2)が、酸素欠陥に加えて、単結晶やアモルファスなどの結晶性と深く関連していることを見出しました。

IGZOは透明導電性酸化物の一種で、高精細フラットパネルやフレキシブル基板の薄膜トランジスタ(TFT)材料として利用されています。しかし、従来の研究の多くはアモルファスIGZOを対象としており、本質的な電子構造は十分に解明されていませんでした。その主な要因の一つとして、IGZO単結晶の作製が困難であったことが挙げられます。
2019年、宮川教授率いる研究グループが、光フローティングゾーン法(*3)により、大型IGZO単結晶の作製に世界で初めて成功し、その詳細な評価が可能となりました。そこで本研究グループはIGZO単結晶に対して、物質の内部まで測定可能であるHAXPESを用いて、その電子構造の解明を試みました。

本研究では、大型放射光施設SPring-8のBL09XU(一部BL47XU)におけるHAXPES測定によりAs-grown試料(作製したままの、酸素欠陥がある結晶)とAnnealed試料(As-grown試料を酸素雰囲気下でアニールして酸素欠陥を埋めた結晶)の電子状態を評価しました。その結果、As-grown試料内の酸素欠陥がIn原子周辺に優先的に形成されることを発見しました。また、酸素アニール後もヒドロキシ基(–OH)による結合が存在していることが確認されました。伝導帯下端近傍のサブギャップ状態は、As-grown試料でのみ明確に観測されました。一方、アモルファス試料では顕著に観測される価電子帯上端近傍のサブギャップ状態は、As-grown,Annealedいずれの試料においてもほとんど観測されませんでした。これらの結果から、価電子帯上端近傍のサブギャップ状態の形成には、結晶性の低下が重要な役割を果たしていることが示唆されました。

本研究成果は、2025年6月16日に国際学術誌「Applied Physics Letters」にEditor’s Pickとしてオンライン掲載されました。

論文情報
雑誌名: Applied Physics Letters
題名 :Hard x-ray photoemission study of bulk single-crystalline InGaZnO4
著者:Goro Shibata, Yunosuke Takahashi, Mario Okawa, Akira Yasui, Yasumasa Takagi, Yusuke Kawamura, Nobuaki Miyakawa, Naoki Kase, Noriaki Hamada, and Tomohiko Saitoh
DOI:10.1063/5.0271655



図 InGaZnO4の結晶構造、単結晶(As-grown試料とAnnealed試料)写真、およびIn 3d内殻・価電子帯HAXPESスペクトル


【研究の背景】

透明導電性酸化物は、太陽電池やディスプレイデバイスへの応用から注目を集めており、その中でも、InGaZnO4(IGZO)は、優れた電気伝導性と大きなバンドギャップを持つため、広く研究されています。しかし、IGZOを使用した薄膜トランジスタ(TFT)において、デバイスの不安定性、特に、光照射下負バイアス負荷不安定性(NBIS)(*4)が課題となっています。この現象は、バンドギャップ内にキャリアを捕える「サブギャップ状態」が形成されていることを示唆しており、実際に伝導帯下端近傍および価電子帯上端近傍にサブギャップ状態が形成されていることが光学測定や光電子分光法により実験的に確認されています。
サブギャップ状態の起源を解明するため、これまでにさまざまな研究が行われてきましたが、従来研究の大半はアモルファスIGZOを対象としていました。その主な理由の一つは、物質本来の物性測定が可能な大型IGZO単結晶が入手困難だったためです。このような背景から、IGZO単結晶の本質的な電子構造は十分に解明されていませんでした。
近年、宮川教授らが光フローティングゾーン法により、高品質なIGZO単結晶の合成に成功したことで、IGZOの物性を詳細に評価することが可能となりました。そこで、本研究グループは、硬X線光電子分光測定(HAXPES)を用いて、サブギャップ状態を含むIGZOの詳細な電子構造を明らかにしようと試みました。


【研究結果の詳細】

As-grown試料とAnnealed試料の作製
光フローティングゾーン法により、IGZO単結晶を作製しました。酸素欠陥の影響を検討するため、作製した結晶(As-grown試料)に加え、酸素雰囲気下でアニールした結晶(Annealed試料)を準備しました。結晶中の酸素欠陥によって生成された電子キャリアは赤色光を吸収して青色光を透過させるため、結晶は青く見えます。そこで、研究グループは単結晶の色の変化を酸素原子が欠陥を埋める指標として用いました。そのため、As-grown試料の青みがかった色が完全に消えて透明になるまで、0.1 MPaの酸素圧力下、1000℃でアニールしました。

HAXPES実験
HAXPES実験は、大型放射光施設SPring-8のBL09XU(一部BL47XU)において、入射光エネルギー7.9 keVを用いて実施しました。測定用の清浄表面は高真空中で単結晶試料を劈開することで準備しました。また、全ての測定は室温で行われました。
②-1 酸素欠陥分布の評価
内殻HAXPESスペクトルを詳細に解析することで、As-grown試料とAnnealed試料の酸素欠陥の分布を評価しました。その結果、Annealed試料ではIn、Zn、Ga陽イオンの環境が一様であるのに対し、As-grown試料では酸素欠陥に起因する2つの異なる陽イオン環境が存在することが明らかとなりました。これらは、酸素欠陥に隣接する陽イオンサイトと酸素欠陥から離れた陽イオンサイトを表しています。また、As-grown試料のIn 3dスペクトルの非対称性が他のスペクトルよりも顕著であることから、酸素欠陥がInO2層に優先的に形成されることが判明しました。この結果は、InO2層における酸素欠陥の形成エネルギーがGaZnO2層よりも小さいとする理論計算の結果とも一致しています。
②-2 サブギャップ状態形成の評価
価電子帯HAXPESスペクトルの測定結果から、As-grown試料において、伝導帯下端近傍のサブギャップ状態の形成が確認されました。この状態は過去の研究においても確認されており、酸素欠陥による伝導帯下端の局在化、格子間水素、酸素欠陥によって形成される陽イオン-陽イオン結合など、いくつかのメカニズムが理論的に提案されていました。一方、Annealed試料では、このサブギャップ状態の形成が確認されなかったことから、酸素欠陥に関連していることが明らかとなりました。 また、As-grown試料とAnnealed試料の価電子帯上端近傍のサブギャップ状態が、アモルファス試料と比較して、大幅に抑制されていることがわかりました。以上の結果から、これらサブギャップ状態の形成には、酸素欠陥だけでなく、結晶性の低下も大きく影響していると結論付けました。


本研究を主導した東京理科大学の齋藤教授は、「本研究は、学科の同僚である宮川教授がInGaZnO4の単結晶作製に成功したことを受けて、その基本的な電子構造を把握することを目的としてスタートした研究です。内殻HAXPESスペクトルの解析から酸素欠陥の分布が明らかになるとは、全く予想していませんでした。このような『予測不能な発見』こそが研究の面白さであり、大きな動機付けとなっています」と、コメントしています。


※本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(17K05502, 21K04909)の助成を受けて実施したものです。また、SPring-8における放射光実験は、公益財団法人高輝度光科学研究センターの承認の下、実施されました(2018A1013, 2018B1049, 2018B1025, 2019A1433, 2019B1013, 2020A1258, 2020A1008, 2021A1415, 2021B1029, 2021B1457) 。


【発表者】

芝田 悟朗 東京理科大学 先進工学部 物理工学科 助教(研究当時、現 日本原子力研究開発機構)
齋藤 智彦 東京理科大学 先進工学部 物理工学科 教授
宮川 宣明 東京理科大学 先進工学部 物理工学科 教授
保井 晃    高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 光電子分光計測チーム 主幹研究員


【用語解説】


※1. 硬X線光電子分光法(HAXPES: Hard X-ray Photoemission Spectroscopy)
物質に硬X線(光エネルギーの高いX線)を照射し、その際に飛び出てくる電子の運動エネルギーを測定することにより、電子の状態を調べる表面分析法。硬X線を光源として使用することで、紫外線や軟X線(光エネルギーの低いX線)を光源とする従来の光電子分光法より深い物質内部(バルク)の電子状態を調べることができる。


※2. サブギャップ状態
本来電子が存在できないはずのバンドギャップ(禁制帯、価電子帯上端~伝導体下端のエネルギー帯)内に現れる電子準位。格子欠陥や不純物などの影響により形成される。材料の電気特性に大きな影響を与えるため、品質評価や性能向上において重要な指標となる。


※3. 光フローティングゾーン法
単結晶を育成する方法の一つ。原料となる多結晶の一部を光により融解させ、融解した部分を表面張力で保持しながら、原料棒と種結晶を相対的に移動させることで種結晶を成長させる。坩堝を使用しないため、不純物の混入が少なく、高純度の単結晶を育成できる。


※4. 光照射下負バイアス負荷不安定性(NBIS)
光照射下でトランジスタのゲート電極に負バイアスを加えると、しきい値電圧が時間とともに負方向へと変化していく現象。ディスプレイ素子において、NBISが進行するとトランジスタが本来のオフ状態を維持できなくなり、画素の切り替え制御が不能となるため、表示品質に深刻な影響を及ぼす。


本件に関するお問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ先】
東京理科大学 先進工学部 物理工学科 教授
齋藤 智彦(さいとう ともひこ)

【報道・広報に関する問い合わせ先】
東京理科大学 経営企画部 広報課
TEL: 03-5228-8107 FAX: 03-3260-5823
E-mail: kohoadmin.tus.ac.jp

公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI) 利用推進部 普及情報課
TEL: 0791-58-2785 FAX: 0791-58-2786
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(SPring-8 / SACLAに関すること)
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極薄の形状可変ミラーを実現!
X線ビームの大きさが3400倍変化


2025年6月27日
名古屋大学
理化学研究所
大阪大学


【本研究のポイント】

・厚みがわずか0.5mmの圧電単結晶ウエハ注1)のみで形状可変ミラーを作製。
・X線ビームサイズを世界で初めて3400倍以上変化させることに成功。
・ビームサイズなどの光学パラメータを大きく変えることにより、多機能型X線分析の実現が期待される。


名古屋大学大学院工学研究科の井上 陽登 助教、松山 智至 教授(兼:大阪大学大学院工学研究科招へい教授)、理化学研究所放射光科学研究センターの矢橋 牧名 グループディレクター、香村 芳樹 チームリーダーらの研究グループは、薄い圧電単結晶ウエハ1枚のみで構成された形状可変ミラーの作製に成功しました。形状可変ミラーはさまざまな分野で活用されており、近年X線集光システムにおける光学パラメータ可変レンズ注2)として注目されています。しかし、これまでにもさまざまな形状可変ミラーが開発されてきましたが、変形量の大きさが十分ではありませんでした。その理由として、変形量を大きくするためにはミラーの厚みを可能な限り薄くする必要がありますが、従来のミラーは異種材料の接合が不可欠なため、構造的に限界がありました。そこで本研究グループは、圧電単結晶であるニオブ酸リチウム(LN)の分極反転特性注3)に着目しました。LNは約1000℃の高温で加熱されると、分極構造が一部変化します。この特性を利用すると接合することなくバイモルフ構造注4)を形成できるため、ミラーの厚みを極限まで薄くすることが可能となります。実際に、厚みが僅か0.5mmのミラーを開発し、その形状を制御することで、X線ビームサイズを3400倍変化させることに成功しました。本成果によりビームサイズなどの光学パラメータを大きく変えることで、X線分析の視野や分解能を変更できるだけでなく、分析手法を切り替えることができる多機能型X線分析が可能となります。また、本ミラーは更なる薄型化が可能であり、例えば0.01mmオーダーまで薄くできます。その場合の変形量は、本成果よりもさらに100倍程度大きくなると計算されるため、X線領域だけでなく、可視光など幅広い波長領域で活用できると期待されます。
本研究成果は、2025年6月27日18時(日本時間)付で英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

論文情報
雑誌名: Scientific Reports
題名 :Ultrathin monolithic bimorph mirror using polarization-inverted lithium niobate wafer
著者:Takato Inoue(名古屋大学), Junya Yoshimizu, Toma Ueyama, Maaya Kano, Yoshiki Kohmura(理化学研究所), Makina Yabashi(理化学研究所), and Satoshi Matsuyama(名古屋大学 兼:大阪大学大学院工学研究科)
DOI:10.1038/s41598-025-05019-8



図1 本研究の概要図


【研究背景と内容】

形状可変ミラーは反射面の形状を調整することで、ミラーに反射された光の局所的な向きを制御することができます。そのため、宇宙望遠鏡や網膜イメージング、高強度レーザーの補償光学システムなど、さまざまな用途で活用されており、近年X線領域でも注目されています。従来のX線用レンズは電子顕微鏡の電磁レンズのように光学パラメータを変えることができないため、実験条件がX線用レンズの設計値に制限されていましたが、形状可変ミラーを用いることでこの問題を解決することができます。しかし、従来の形状可変ミラーには、変形量を大きくできない課題がありました。従来型では、変形の駆動源である圧電素子(電圧を加えると変形する材料)と、光を反射するミラー基板の異種材料を接合する必要があるため、形状可変ミラー全体の厚みを薄くできません。変形量は、厚みが薄いほど大きくなるため、ミラーの構造的な限界がありました。
そこで研究チームは、ニオブ酸リチウム(LN)の分極反転特性に着目しました。LNは圧電単結晶であるため、変形の駆動源にできます。さらに、研究チームはこれまでの開発において、LNの表面を光の反射面として利用できるレベルまで超平滑化できることに気付き、LNのみで構成されたX線形状可変ミラー(LNミラー)を実現してきました(2024.5.8プレスリリース)。その一方で、LNミラーは均一な分極構造を有するため、このままでは数nm程度しか変形できず、光学パラメータを変更する目的において不十分です。変形量を大きくするためにはバイモルフ構造の形成が不可欠ですが、結局接合が必要になってしまいます。この課題を解決するために本研究では、 LNの分極反転特性を利用しました(図1)。 LNは約1000℃の高温で加熱されると、分極構造が一部変化します。この特性により、接合することなくバイモルフ構造を形成できるため、ミラーの厚みを極限的に薄くすることができます。実際にミラーを作製し変形量を評価したところ、マイクロメートルを超える大変形が可能であることを確認しました(図2(a))。変形精度もナノメートルオーダーとX線を集光するにあたって十分な精度であり、ビームサイズを3400倍変化させることに成功しました(図2(b),(c))。本研究は、SPring-8のBL29XUで実施されました。



図2 実験結果。(a)印加電圧値とミラー変形量の関係。(b)収束光モードにおけるX線ビームサイズの形状。(c)発散光モードにおけるX線ビームサイズの形状。


【成果の意義】

本成果によりビームサイズなどの光学パラメータを大きく変えることで、X線分析の視野や分解能を変更できるだけでなく、分析手法を切り替えることができる多機能型X線分析が可能となります。また、このミラーは耐熱性が非常に高いため、X線領域だけでなくハイパワーレーザーなど過酷な環境下でも動作できると考えられます。さらに、本ミラーはさらなる薄型化が可能であり、例えば0.01mmオーダーまで薄くすることができます。その場合の変形量は,本成果よりもさらに100倍程度大きくなると計算され、より大きな変形量を必要とする領域でも活用できるようになります。これらを通じて幅広い科学・産業の発展に貢献することが期待されます。
本研究は、2023年度から始まったJST 『創発的研究支援事業(フレキシブルかつ超高安定なX線顕微鏡の開発、JPMJFR222B)』の支援のもとで行われたものです。


【用語説明】


注1)圧電単結晶ウエハ:
物質の中には、力を加えると電圧が生じ、その反対に電圧を加えると変形するものがあり、圧電素子と呼ばれている。その中でも圧電単結晶は均質な材料であり、圧電セラミックスなど他の圧電素子と比べて安定性や線形性が高い利点がある。


注2)光学パラメータ可変レンズ:
光学パラメータとして、開口数、焦点距離、アクセプタンスや倍率などがある。通常、X線顕微鏡などで用いるレンズは形を変えることができないため、光学パラメータが固定されている。その一方で、形状可変ミラーをX線レンズとすることで、ミラーの変形によりパラメータを自在に変化させることができる。


注3)分極反転特性:
通常ニオブ酸リチウムは単結晶かつシングルドメインの圧電材料として利用され、材料全体で均一な分極構造を有している。その一方で、基板を加熱したり、特定の元素やイオンを注入したりすることで、材料内部の分極方向を部分的に反転させることができる。


注4)バイモルフ構造:
異なる圧電定数や、熱膨張係数を持つ2層の材料を貼り合わせた構造である。電圧印加や温度変化によって、層間のわずかな変形差により生じる応力を利用して、大きく変形させる。


本件に関するお問い合わせ先
【研究者連絡先】
名古屋大学大学院工学研究科
助教 井上 陽登(いのうえ たかと)

【報道連絡先】
名古屋大学総務部広報課
TEL:052-558-9735 FAX:052-788-6272
E-mail:nu_researcht.mail.nagoya-u.ac.jp

理化学研究所 広報部 報道担当
TEL:050-3495-0247
Email: ex-pressml.riken.jp

大阪大学 工学研究科 総務課 評価・広報係
TEL:06-6879-7231 FAX:06-6879-7210
Email: kou-soumu-hyoukakouhouoffice.osaka-u.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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未来の材料開発に向けた新しい大環状分子を合成
未踏だったパーヒドロキシアサー[6]アレーンとその酸化体を世界で初めて合成し、機能を解明


2025年6月10日
公立大学法人 名古屋市立大学


【研究のポイント】

・新環状分子「パーヒドロキシアサー[6]アレーン」とその酸化体を世界で初めて合成
・両分子は、将来的な機能化に有利な多数の遊離水酸基を有する
・従来のピラーアレーンでは到達できなかった新しい機能性分子設計や材料開発への展開が可能に


名古屋市立大学の田畑 愛美 大学院生、青栁 忍 教授、雨夜 徹 教授らの研究グループは、新しい環状分子「パーヒドロキシアサー[6]アレーン」およびその酸化体「パーヒドロキシアサー[6]キノン」の合成に世界で初めて成功しました(図1)。これらの分子は、材料科学など幅広い分野で注目されている環状分子「ピラーアレーン」と構造的に類似する新たな派生体にあたります。母骨格であるアサーアレーンは、ピラーアレーンよりも多くの官能基を有し、高機能材料の創出に有望な構造を備えています。しかし、2013年の初報告以来、水酸基が遊離した「パーヒドロキシ化体」は、これまで合成例が報告されておらず、未踏の分子でした。本研究により、その合成と単離が初めて達成され、さらに酸化により対応するキノン誘導体への変換も実現しました。これにより、従来アクセスが困難であった新たな分子を利用した機能性分子の設計や材料開発の可能性が大きく広がります。
本研究成果は 米国化学会の国際学術誌『Organic Letters』の電子版に2025年6月6日(日本時間)付で掲載されました。

論文情報
雑誌名: Organic Letters
題名 :Synthesis and Characterization of Perhydroxy-asar[6]arene and Perhydroxy-asar[6]quinone
著者:田畑 愛美1,2、青栁 忍1、雨夜 徹1*
所属:1) 名古屋市立大学 大学院理学研究科、2) 名古屋市立大学 大学院薬学研究科(*Corresponding author)
DOI:10.1021/acs.orglett.5c01891


【背景】

ピラー[n]アレーン図1A)(注1)に代表される環状分子は、分子内に空間を持つ「ホスト分子」として、超分子化学や材料科学、さらには医薬品のドラッグデリバリーなど、さまざまな分野で応用が進んでいます。中でも、全ての芳香環がメトキシ基で置換されたアサー[n]アレーン図1B)(注2)は、官能基導入の自由度が高く、より高機能な分子設計が可能な骨格として期待されています。しかし、その水酸基を遊離させた「パーヒドロキシアサー[n]アレーン」(図1C)(注3)は、これまで合成例がなく、応用展開の障壁となっていました。



図1. (A)ピラー[n]アレーン、(B)アサー[n]アレーン、(C)本研究で合成した「パーヒドロキシアサー[6]アレーン」およびその酸化体「パーヒドロキシアサー[6]キノン」

【研究の成果】

パーヒドロキシアサー[6]アレーンの化学合成がこれまで達成されてこなかった背景には、この化合物自体が非常に不安定であることが、本研究によって明らかになったという事実があります。特に、空気中の酸素に対して極めて敏感で、容易に酸化されてしまう性質が、合成および単離の大きな障壁となっていたと考えられます。本研究チームはこの課題に対し、窒素雰囲気下で水を加えて目的化合物を沈殿させ、窒素を吹き付けながら速やかにろ過するという操作により、パーヒドロキシアサー[6]アレーンの単離に成功しました。さらに、この化合物を空気中に曝露することで自発的に酸化が進行し、酸化体であるパーヒドロキシアサー[6]キノン(注4)が得られることも明らかにしました(図1C)。
得られたパーヒドロキシアサー[6]キノンは、水酸化カリウム水溶液中で溶解性を示し、明確な二電子還元波を示すなど、酸化還元活性を持つことが確認されました。また、大型放射光施設SPring-8のBL41XUを用いたX線結晶構造解析により、分子内に溶媒分子を包接した構造が明らかになり、分子が平面状に積層する様子も観察されました。さらに、2価のジアンモニウムカチオンをゲスト分子とするホスト–ゲスト包接挙動を水溶液中で示し、特にこの包接はエントロピー駆動の相互作用であることが明らかになりました。


【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

本研究で合成されたパーヒドロキシアサー[6]アレーンおよびそのキノン型誘導体は、これまでのピラーアレーンでは実現できない分子設計や高機能材料の開発に向けた強力な足がかりとなります。多数の水酸基をもつことから、金属イオンとの錯形成、さらなる化学修飾、電子伝達材料としての展開などが期待されます。今後は、分子センサー、電池材料、ナノ材料、分子触媒など、環境・エネルギー・医療分野への応用が見込まれ、持続可能な社会の構築にも貢献する可能性を秘めています。


【研究助成】

科学研究費補助金「挑戦的研究(萌芽)」(課題番号:JP24K21772、研究代表者:雨夜徹)


【用語解説】


(注1)ピラーアレーンまたはピラー[n]アレーン
2008年に生越友樹氏および中本義章氏らによって初めて合成された環状分子。ベンゼン環がメチレン基(–CH₂–)でつながってできた柱状構造を持ち、その構造が柱(pillar)を想起させることから「ピラーアレーン」と名付けられた。[n]は繰り返し単位の数を表す。環内に空孔を有し、他の分子を包み込むホスト分子として機能する。合成および誘導化が容易であり、分子認識や超分子材料、分子機械など多様な分野で応用が進んでいる。


(注2)アサーアレーンまたはアサー[n]アレーン
2013年にJames Fraser Stoddart氏らによって合成されたピラーアレーンに類似した構造を持つ環状分子。アサロールメチルエーテル(asarol methyl ether)から合成されたことに由来し、「アサーアレーン」と名付けられた。[n]は繰り返し単位の数を表す。ピラーアレーンのベンゼン環上の水素原子がすべてメトキシ基(–OCH₃)に置換されている点が特徴であり、より高い官能基化の可能性を持つ骨格である。


(注3)パーヒドロキシ
「完全にヒドロキシ化された」という意味。ヒドロキシ基(-OH)は水酸基ともよばれる。


(注4)キノン
ベンゼン環に似た炭素の6員環構造において、二重結合(C=C)2つとカルボニル基(C=O)2つが共存する構造をもつ有機化合物。電子を受け取る性質をもち、酸化還元反応に関与しやすい。生体内ではビタミンKや補酵素Q(ユビキノン)などの構造にも見られ、生命活動において重要な役割を果たす。


本件に関するお問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 大学院理学研究科 教授 雨夜 徹

【報道に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 経営企画部広報室広報係
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-853-8328  FAX:052-853-0551
E-mail:ncu_publicsec.nagoya-cu.ac.jp

連携できる企業様でご関心をお持ちいただける場合は、下記の問い合わせ先までご連絡ください。
【共同研究に関する企業様からの問い合わせ】
名古屋市立大学 産学官共創イノベーションセンター
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-853-8041  FAX:052-841-0261
E-mail:ncu-innovationsec.nagoya-cu.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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本件に関するお問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ】
名古屋市立大学 大学院理学研究科 教授 雨夜 徹

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名古屋市立大学 経営企画部広報室広報係
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-853-8328  FAX:052-853-0551
E-mail:ncu_publicsec.nagoya-cu.ac.jp

連携できる企業様でご関心をお持ちいただける場合は、下記の問い合わせ先までご連絡ください。
【共同研究に関する企業様からの問い合わせ】
名古屋市立大学 産学官共創イノベーションセンター
名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-853-8041  FAX:052-841-0261
E-mail:ncu-innovationsec.nagoya-cu.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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電気の力でココアバターの結晶をコントロール!
〜美味しくて健康的なチョコレート製造へ貢献〜


2025年6月13日
広島大学
高輝度光科学研究センター


【本研究成果のポイント】

・ココアバターがもつさまざまな結晶の構造(=結晶多形)を、電気の力(外部電場)によってコントロールし、口どけの良い結晶を生成することに成功しました。
・口どけの良さにつながるV型結晶の生成には、外部電場を加えるとともに、適切な周波数を加えることが重要です。
・口どけの良い(微細な結晶の)美味しいチョコレート製造への応用に期待されます。


広島大学大学院統合生命科学研究科 小泉 晴比古 准教授、上野 聡 教授、羽倉 義雄 教授、高輝度光科学研究センター 関口 博史 主幹研究員(チームリーダー)、青山 光輝 主幹技師の共同研究グループは、チョコレートの美味しさを左右する重要な要素であるココアバターの結晶多形(※1)について、外から電気を加える外部電場を適用することで、美味しい口どけをもたらすⅤ型という結晶への変化(多形転移)を促進できることを明らかにしました。
本研究では、ココアバターのⅡ型からⅤ型への多形転移頻度が、適用する外部電場の周波数によって変化することを確認しました。特に、10 kHz(キロヘルツ)の周波数で約2.85倍の多形転移の促進効果が得られる一方、周波数が高くなるにつれて効果は減少し、5 MHz(メガヘルツ)で消失することを見出しました。この現象は、結晶と結晶の境目にあたる「界面」に形成される「電気二重層(※2)」の挙動に起因すると考えられ、電気二重層の安定性が結晶多形の促進に重要であることが示唆されました。この成果は、外部電場を利用してココアバターの結晶構造を調整することが、よりきめ細かいⅤ型結晶の生成を促進し、結果として優れた口どけを持つチョコレート製造に貢献する可能性を示しています。
本研究成果はFood Research Internationalのオンライン版に2025年5月27日付で掲載されました。

論文情報
雑誌名: Food Research International
題名 :Control of Polymorphic Transition for Cocoa Butter under Applied External Electric Field
著者:Haruhiko Koizumi1※, Yuka Nakao1, Hiroshi Sekiguchi2, Koki Aoyama2, Yoshio Hagura1, Satoru Ueno1
所属:広島大学 大学院統合生命科学研究科1,高輝度光科学研究センター2, 責任著者
DOI:10.1016/j.foodres.2025.116368


【背景】

チョコレートの美味しさ、特に「口どけの良さ」は、ココアバターに含まれる結晶の状態(結晶多形)によって決まります。ココアバターには Ⅰ型から Ⅵ型 まで6種類の結晶多形がありますが、最も望ましいとされるのが、人間の口の温度(33 ℃)に近い温度で融解するⅤ型です。美味しいチョコレートを作るためには、このⅤ型をいかに正確に生成・制御するかが非常に重要です。加えて、Ⅴ型の結晶サイズを細かくすることも、より良い舌触りや食感を実現するために不可欠です。
これまで、金属や酸化物といった無機物質やタンパク質といった有機物質の結晶化において、応力場(力の加え方)、磁場、電場、電磁場などの外からの影響(外場)を応用して制御する試みが行われてきました。中でも電場は、比較的弱い強度でも効果が得られるため、大型の装置を必要とせず結晶化を制御できるという利点があります。本研究は、この電場の利点に着目し、ココアバターの結晶多形制御、特にⅡ型からⅤ型への多形転移の促進を目指しました。


【研究成果の内容】

本研究では、ココアバターのⅡ型からⅤ型への多形転移に対する外部電場の効果を詳細に調べました。ココアバターに3000 V/cmの外部電場を1週間加え、多形転移頻度を調査しました。ココアバターの結晶多形の特定には、兵庫県にある大型放射光施設「SPring-8」のビームラインBL40XUを使用しました。非常に細くて強いX線を使ってココアバターの結晶の形や微細な構造を詳しく調べるための実験装置です。まず、光学顕微鏡像で示されている白い球状の晶出物が、ココアバターのⅤ型であることが、SPring-8のBL40XUを用いて、明らかとなりました。そして、このココアバターのⅤ型である白い球状の晶出物を観察すると、外部電場(3000 V/cm)を加えることで、Ⅱ型からⅤ型への多形転移頻度が促進することが確認されました。また今回のケースでは、ココアバターのⅤ型の誘電率がⅡ型の誘電率よりも小さいために電場によって多形転移頻度が促進したと熱力学的に解釈できます。実際にココアバターのⅡ型とⅤ型の誘電率を測定し、熱力学的な解析と整合することも示されました。
さらに、多形転移の促進効果は、加える電場の周波数に依存し、10 kHzの周波数では外部電場を加えなかった時と比べ、約2.85倍まで増加しました。しかし、周波数が1 MHz以上になると効果は著しく減少し、5 MHzでは効果がほぼ消失しました。ココアバターの誘電率の周波数依存性の測定において、1 MHzあたりで誘電率の減少(誘電緩和(※3)が観察されました。このことから、1 MHz以上の周波数では、結晶界面で形成されていた電気二重層が不安定になったり、消失したりすると考えられます。
つまり、ココアバターの多形転移を効果的に制御するためには、単に電場をかけるだけでなく、電気二重層の形成と安定性を考慮し、適切な周波数で電場を加えることが重要であることが分かりました。この技術を用いることで、口どけの良いⅤ型の微細な結晶を効率的に生成することが可能になります 。



図1:ココアバターのⅡ型からⅤ型へ多形転移している様子
電場なしでは、多くの結晶がⅣ型にとどまり、Ⅴ型への転移は限定的。
電場ありでは、Ⅴ型が増加し多形転移頻度が促進されている。


【今後の展開】

本研究で得られた、外部電場によるココアバターのⅡ型からⅤ型への多形転移の促進の知見は、きめ細かいⅤ型結晶の生成を制御し、より優れた口どけを持つチョコレート製造技術の発展に貢献することが期待されます。特に、電気二重層の安定性を考慮した周波数や電場条件の最適化が、更なる結晶多形制御の鍵となります。また、外部電場がココアバターの粘度を低下させ、低脂肪化にも貢献する可能性が報告されています。チョコレートの原料は、カカオマスや砂糖といった粉体を加えることで粘度が高くなり、製造時にパイプの詰まりなどの問題が生じやすくなります。通常はココアバターを追加して粘度を下げる(追油)ことで対応していますが、外部電場によって追油せずに粘度を低下させることができれば、ココアバターの使用量を削減でき、低脂肪チョコレートの製造が可能になります。このように本技術を応用して、美味しさと健康を両立させた新しいチョコレート製品の開発にも貢献できると考えています。


【用語解説】


※1. 結晶多形
同じ化学組成を持つ物質が、分子の配列が異なる結晶構造をとる現象。ココアバターでは、Ⅰ型からⅥ型の6つの結晶多形が存在し、Ⅰ型が最も熱力学的に不安定で、Ⅵ型が熱力学的に最安定となっている。


※2. 電気二重層
物質の表面にプラスの電気が溜まると、その近くにマイナスの電気が引き寄せられてできる薄い二重構造。これが表面の電気の状態を安定させ、外部からの電気の影響を調節する。本研究では、ココアバターの結晶界面に形成される電荷の分布を指す。


※3. 誘電緩和
電場をかけた際に物質内の電荷の再配置が遅れる現象。特定の周波数で誘電率が変化し、エネルギー吸収が起こる。


本件に関するお問い合わせ先
<研究に関すること>
広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授 小泉晴比古(こいずみ はるひこ)

公益財団法人高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター
主幹研究員 関口博史(せきぐち ひろし)

<広報・報道に関すること>
広島大学 広報室
TEL:082-424-6762
E-mail:kohooffice.hiroshima-u.ac.jp

高輝度光科学研究センター(JASRI)利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785
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(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
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本件に関するお問い合わせ先
<研究に関すること>
広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授 小泉晴比古(こいずみ はるひこ)

公益財団法人高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター
主幹研究員 関口博史(せきぐち ひろし)

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広島大学 広報室
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(SPring-8 / SACLAに関すること)
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Tb-Coアモルファス薄膜の4つの磁気補償点の発見
-磁性体の応用に新しい視点-


2025年6月10日
群馬大学
量子科学技術研究開発機構
信州大学
高輝度光科学研究センター


本件のポイント

● Tb-Coアモルファス薄膜の円偏光X線磁気コンプトン散乱測定を行い磁気補償、角運動量補償、スピン磁気補償、軌道磁気補償の少なくとも4つの補償点があることを明らかにした。
●これまで磁気補償、角運動量補償については、垂直磁化、高速磁化反転との関連が注目され研究が進められてきた。今回新たに見出したスピン磁気補償、軌道磁気補償に着目した研究を進めることで、電界駆動・電流駆動磁化反転などに関連したスピントロニクスデバイス開発の進展が期待される。
●本研究は群馬大学、量子科学技術研究開発機構、信州大学、高輝度光科学研究センターとの共同研究であり、大型放射光施設SPring-8の高輝度・高エネルギーX線の利用によって可能になった。


群馬大学(学長:石崎泰樹)の櫻井浩教授・高橋学教授、量子科学技術研究開発機構(理事長:小安重夫。以下「QST」)の安居院あかね上席研究員、信州大学(学長:中村宗一郎)の劉小晰教授、高輝度光科学研究センター(理事長:雨宮慶幸)の辻成希主幹研究員らの研究グループは、磁気コンプトン散乱測定を利用し、磁気デバイス材料であるTb-Coアモルファス薄膜において、磁化がゼロとなる磁気補償、角運動量がゼロとなる角運動量補償、スピン磁化がゼロとなるスピン磁気補償、軌道磁化がゼロとなる軌道磁気補償の少なくとも4つの補償点があることを見出しました。これまで、磁気補償に着目した垂直磁気記録に関する研究、角運動量補償に着目した高速磁化反転に関する研究が進められてきました。新たに見出した軌道角運動量補償あるいはスピン角運動量補償に着目した研究が進めば、電界で軌道磁気モーメントを制御する電界駆動の磁気メモリーや電流のスピントルクで磁壁駆動できるレーストラックメモリーなどの開発に資する可能性があります。本研究で見出した4つの補償点の関係は、各補償点に関連した材料の機能を活用したスピントロニクスデバイスの設計に指針を与えると期待されます。なお、大型放射光施設SPring-8の高輝度・高エネルギー・円偏光X線を用いることで、初めてこの測定が可能になりました。



図 TbxCo100-xアモルファス薄膜の4つの磁気補償点の組成比依存性。
磁化がゼロとなる磁気補償組成Xcon、 角運動量がゼロとなる角運動量補償組成XJ、スピン磁気モーメントの総和がゼロとなるスピン磁気補償組成Xspin、 軌道磁気モーメントの総和がゼロとなる角運動量補償組成Xorbitalの温度変化。Xorbital (T) < XJ (T) < Xcon (T) < Xspin (T)であることがわかる。


論文情報
雑誌名: Journal of Magnetism and Magnetic Materials
題名 :Four compensation points in TbxCo100-x amorphous films
著者:Akane Agui, Akino Harako, Naruki Tsuji, Xiaoxi Liu, Kazushi Hoshi, Kosuke Suzuki, Manabu Takahashi, Hiroshi Sakurai
DOI:10.1016/j.jmmm.2025.173248


研究の背景

一般に磁性体はマクロな磁化測定(注1)で評価されていますが、我々はミクロスコピックな磁性の起源となる構成元素、スピン磁気モーメント、軌道磁気モーメントに着目しTb-Coアモルファス薄膜の磁気補償について研究を進めてきました。Tb-Coアモルファス薄膜は、スペリ磁性(注2)とよばれる特殊な磁気構造を有しており、Co原子とTb原子の磁気モーメントは互いに逆を向いているため、特定の組成で薄膜の磁化がゼロとなります。この現象は磁気補償と呼ばれ、その組成近傍では高密度磁気記録に有効な垂直磁化が観測されます。スピン磁気モーメントは電子のスピン角運動量に起因し、軌道磁気モーメントは電子の軌道角運動量に起因します。スピン角運動量と軌道角運動量の総和がゼロとなる角運動量補償組成では、磁気記録時間を短縮できることが知られています。これら良く知られた磁気補償と角運動量補償に加え、スピン磁気モーメントの総和がゼロとなるスピン磁気補償組成や、軌道磁気モーメントの総和がゼロとなる軌道磁気補償組成で、電流のスピントルクによる磁壁駆動や電界による軌道磁気モーメント制御との関連を見出せる可能性があります。また、4つの磁気補償点の関係を把握することにより、垂直磁化、高速磁化反転、電流駆動・電界駆動磁化反転など各補償点に関連した材料の機能を活用したスピントロニクスデバイス(注3)の設計に指針を得ることができます。しかしながら、スピン磁気補償と軌道磁気補償の実験的報告はなく、磁気補償、角運動量補償、スピン磁気補償、軌道磁気補償の関係については明らかではありませんでした。


研究成果

今回の研究では、組成xを変えた7種類のTbxCo100-xアモルファス合金薄膜(12<x<23)を信州大学で作製しました。群馬大学のSQUID磁力計で磁化測定を行い、高輝度光科学研究センターの協力のもとQST、群馬大が大型放射光施設SPring-8(注4)のBL08Wで磁気コンプトン散乱測定(注5)を行いました。各組成の試料について、10KXcon、角運動量がゼロとなる角運動量補償組成XJ、スピン磁気モーメントの総和がゼロとなるXspin、軌道磁気モーメントの総和がゼロとなるXorbitalの4つの磁気補償組成が存在すること、それらの磁気補償組成は温度変化し、Xorbital (T) < XJ (T) < Xcon (T) < Xspin (T)の関係にあることを見出しました()。
特に本研究で新たに指摘したスピン角運動量補償点あるいは軌道角運動に関する知見は、電流のスピントルクで磁壁駆動できるレーストラックメモリー(注6)や電界で軌道磁気モーメントを制御する電界駆動の磁気メモリーの開発に資すると考えられます。本研究で示された4つの補償点補償点を独立に制御したり、組み合わせて制御したりすることで、材料の機能をより活用したスピントロニクスデバイスの設計指針が得られると期待されます。なお、大型放射光施設SPring-8の高輝度・高エネルギー・円偏光X線を用いることで、初めてこの測定が可能になりました。


今後の展開

本研究で示された4つの補償点に関する知見は、電流駆動磁壁移動時に僅かな電流で磁壁駆動ができる超低消費電力のレーストラックメモリー、電界で軌道磁気モーメントを制御する電界駆動磁気抵抗メモリー(MRAM)、スピン流の検出(スピンホール効果)を用いたTHzのセンサーの開発など、スピントロニクスデバイス開発のブレークスルーにつながると期待されます。さらに、3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(注7)で開発される高性能の軟X線磁気円二色性吸収測定装置を活用することで、広汎な新磁性材料の局所磁気補償の解明が大きく進展すると期待されます。


付記

本研究は日本学術振興会(JSPS) 科研費 基盤研究(C) 15K04658, 19K04464、基盤研究(B) 22H02103、国際共同研究強化(B) 21KK0095からの支援を受けて行われました。


【用語解説】


※1. マクロな磁化測定
外部磁場によって試料全体に誘導された磁気成分を計測する。代表的な測定に振動試料型磁力計(VSM磁力計)やSQUID磁力計を用いる方法がある。


※2. スペリ磁性
希土類-遷移金属合金がアモルファス構造をとるとき、希土類元素の4f電子の磁気モーメントと3d遷移金属元素の3d電子の磁気モーメントの向きは、それぞれが一方向にそろうのではなく分布を持つことが多い。4f電子の磁気モーメントと3d電子の磁気モーメントが互いに逆向きの分布を持つ場合をスペリ磁性とよぶ。


※3. スピントロニクスデバイス
従来のエレクトロニクスデバイスでは、半導体におけるpn接合を利用しており、電子の電荷を電場で制御することによりデバイスの動作を制御している。スピントロニクスデバイスでは、電子のスピンを磁場または電流で制御することにより、デバイスの動作を制御する。微細化や低消費電力化に有効である。


※4. 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁場によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。


※5. 磁気コンプトン散乱測定
入射X線が物質中の電子で散乱されたとき、散乱X線のエネルギーが入射X線のそれより低くなる現象をコンプトン散乱とよぶ。物質中の電子のスピン状態に依存したコンプトン散乱を磁気コンプトン散乱とよぶ。この現象を利用して磁化のスピン成分を測定することができる。


※6. レーストラックメモリー
磁区の磁化の向きで0と1の情報が書き込まれた磁気ナノワイヤに、電流パルス(矩形波)を与えることによって情報のある磁区を駆動し(磁壁を駆動し)、読み取り素子である磁気トンネル接合素子(MTJ素子)で構成する磁性層で読みだす。不揮発性であり、機械的な駆動部分がないため省電力で高速の読み出しが可能とされる。


※7. 3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス)
国の主体機関である量子科学技術研究開発機構と地域パートナー(宮城県、仙台市、東北大学、東北経済連合会で構成)の代表機関である光科学イノベーションセンターによる官民地域パートナーシップという新しい枠組みによって整備・運営する特定先端大型研究施設で、東北大学青葉山新キャンパス内に立地している。利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。最新の円型加速器設計を国内で初めて採用した第4世代放射光施設で、従来の100倍の高輝度化と高コヒーレント化を実現することで、物質構造の解析に加え、機能に影響を与える「電子状態」、「ダイナミクス」等の詳細な解析が可能。


本件に関するお問い合わせ先
〈研究に関すること〉
群馬大学 大学院理工学府電子情報部門
教授 櫻井浩
教授 高橋学

量子科学技術研究開発機構
上席研究員 安居院あかね

信州大学 大学院工学研究科 教授 劉小晰

高輝度光科学研究センター(JASRI) 放射光利用研究基盤センター
回折・散乱推進室 主幹研究員 辻成希

〈報道に関すること〉
群馬大学 桐生地区事務部事務課庶務係(広報担当)
TEL:0277-30-1895(直通)  FAX:0277-30-1020
E-mail:rikou-prml.gunma-u.ac.jp

量子科学技術研究開発機構
国際・広報部国際・広報課
TEL:043-206-3026(直通)  FAX:043-206-4062
E-mail:infoqst.go.jp

信州大学 総務部総務課広報室
TEL:0263-37-3056(直通)  FAX:0263-37-2188
E-mail:shinhpshinshu-u.ac.jp

<SPring-8/SACLAに関すること>
高輝度光科学研究センター 
利用推進部 普及情報課 
TEL:0791-58-2785  FAX:0791-58-2786
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信州大学 大学院工学研究科 教授 劉小晰

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回折・散乱推進室 主幹研究員 辻成希

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