放射光(X線)で小さなものを観察する大きな2つの施設

木材が曲がる瞬間をナノ・ミクロの世界で初めて観察!
―放射光で明かされたマルチスケール構造変化―


2025年7月25日
京都大学


【研究のポイント】

・木材にマクロな変形を与えたときのミクロ・ナノ構造の変化の検出に世界で初めて成功した。
・木材の曲げで生じる引張・圧縮ひずみに伴うミクロクラック発生・細胞圧密がそれぞれ検出された。
・引張・圧縮ひずみに伴うセルロースミクロフィブリル※1の間隔の増加・減少がそれぞれ検出された。


木材を大きく曲げると、肉眼では見えないナノ~ミクロスケールの構造にどのような変化が起きるのでしょうか。この度、京都大学生存圏研究所の田中聡一助教・今井友也教授、京都府立大学大学院生命環境科学研究科の神代圭輔准教授、産業技術総合研究所マルチマテリアル研究部門の堀山彰亮研究員らの研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」で行った小角X線散乱(SAXS)と広角X線回折(WAXD)による「その場観察」で、木材が曲がる瞬間のナノ・ミクロ構造の変化を世界で初めて捉えました。木材を曲げると、凸側(外側)は引っ張られて伸び、凹側(内側)は圧縮されて縮みます。得られたSAXSデータをフィンランド・Aalto大学(現Jyväskylä大学)のPenttilä博士が開発した「WoodSASモデル※2」で解析した結果、引っ張られた外側では微小なクラック(ひび割れ)が発生し、圧縮された内側では細胞が圧密化(細胞が密集して密度が高くなる現象)することが検出されました。同時に、細胞壁を構成するセルロースミクロフィブリル同士の距離(数ナノメートル)が、引っ張られることで広がり、圧縮されることで狭まることも検出されました。この成果は、外力によって木材のナノ・ミクロ構造を制御する新たな可能性を示すものであり、革新的な木質系材料の開発や木材加工技術の向上に貢献するとともに、地球上最大規模のバイオマス資源である木材のさらなる有効活用にもつながると期待されます。
本研究成果は、2025年7月2日に国際学術誌『Carbohydrate Polymers』(Elsevier出版)でオンライン公開され、同月10日に正式版が公開されました(現地時間)。

論文情報
雑誌名: Carbohydrate Polymers
題名 :In-situ synchrotron SAXS/WAXD analysis for tracking the change in multiscale structure of wood during macroscopic flexural deformation
著者:田中聡一1*、神代圭輔2、堀山彰亮3、今井友也1
所属:1) 京都大学 生存圏研究所(*Corresponding author)、2) 京都府立大学大学院 生命環境科学研究科、3) 産業技術総合研究所 マルチマテリアル研究部門
DOI:10.1016/j.carbpol.2025.124000


【背景】

木材は、目に見える大きさから顕微鏡でしか見えないナノレベルまで、非常に複雑な階層的構造を持っています。この多様な構造が木材の強度や柔軟性といった機械的性質を決めています。木材を効率的に加工することに加え、優れた性能をもつ木質系材料を開発するためには、これらの構造が変形時にどのように変化するかを詳しく理解することが重要です。しかし、これまでの研究では、マクロな変形に伴うナノ~ミクロスケールの構造変化を同時に直接観察することが困難でした。
一方で、近年では放射光施設を利用したX線による散乱・回折測定(SAXS/WAXD)が材料科学分野で広く用いられており、木材の微細な構造解析にも利用されています。この技術ではオングストロームから数百ナノメートルオーダーの構造解析が可能であるとされてきました。しかし、SAXSやWAXDにはそれらの構造が集まってできたより大きなミクロンオーダーの構造までが全て影響します。近年、フィンランド・Aalto大学(現Jyväskylä大学)のPenttilä博士らは木材のSAXSのデータより構造情報を求める「WoodSASモデル」を提案し、このモデルが木材のナノ~ミクロ構造変化を適切に評価できることを明らかにしました。そこで、本研究では、SAXS/WAXD測定を木材が変形している最中に行い、SAXSのデータをWoodSASモデルで解析することで、マルチスケールな階層構造がどのように変化するかを明らかにすることを目的としました。



図1. 木材のマクロな曲げ変形とそれに伴うミクロ構造・ナノ構造の変化


【研究の成果】

SPring-8のBL40B2ビームラインの高輝度X線を用いて、飽水状態※3の木材に曲げ変形を与えながらSAXS/WAXD同時測定を行い(図1)、木材中のナノ~ミクロ構造のその場観察を行いました。そのために、水中で木材を曲げながらX線を通す特殊な治具を作製してSPring-8に持ち込みました。木材を曲げると、凸側(外側)は引っ張られて伸び、凹側(内側)は圧縮されて縮みます。得られたSAXSデータから引張と圧縮によって細胞の形状が変化することが示唆されました。また、SAXSデータをWoodSASモデルで解析することにより、細胞壁を構成するセルロースミクロフィブリルどうしの距離が引張によって増加し、圧縮によって減少することが示唆されました。さらに、圧縮による圧密化の際に細胞壁が折りたたまれることが示唆され、引張によって微小なクラックが生成することも示唆されました。一方、WAXDのデータから評価されるセルロース結晶の格子間隔や結晶サイズに大きな変化は認められませんでした。これらのことから、十分に水分を含んだ木材の変形は、主にセルロースミクロフィブリル周辺のマトリクス成分※4が担うことが示唆されました。


【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

本研究によって、木材が曲げられた際のナノ~ミクロスケールでの構造変化を世界で初めて詳細に検出できました。一方で、今回用いた解析モデルには木材の構造を反映しきれていない部分も残っています。今後、一層データを蓄積して新たなモデルを構築することで、検出精度を向上させるだけでなく未知の構造変化を明らかにしていくことが課題です。
この研究は、木材をナノ・ミクロスケールで制御する新技術につながる可能性があり、次世代の革新的な木材加工技術や新素材の開発への応用が期待されます。今後は、さらに多くの樹種や加工条件について構造変化を詳しく調べることで、木材利用の新たな可能性を広げていきます。


【研究助成】

京都大学生存圏研究所のミッション4・生存圏科学研究およびJSPS科研費(課題番号25K02072)の支援を受けて実施されました。


【用語解説】


※1. セルロースミクロフィブリル
木材細胞壁の主成分で、強度や柔軟性を与えるナノスケールの繊維状構造。


※2. WoodSASモデル
フィンランドのPenttilä博士が開発した、SAXSデータから木材の構造を解析するためのモデル。


※3. 飽水状態
木材が水分を最大限に含んだ状態で、細胞内腔(細胞内部の空間)がすべて水で満たされ、細胞壁が十分に膨潤し、それ以上水を吸収できない状態。


※4. マトリクス成分
セルロースミクロフィブリル間を埋めるヘミセルロースやリグニンなどの物質。


本件に関するお問い合わせ先
(研究に関するお問い合わせ先)
京都大学生存圏研究所 助教 田中 聡一

(報道に関するお問い合わせ先)
京都大学広報室国際広報班
TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094
E-mail:commsmail2.adm.kyoto-u.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
E-mail:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。

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ヒメダイヤの新たな応用:蛍光X線ホログラフィーの高圧下での測定に成功
~特定元素周りの原子位置の3次元的可視化~


2025年7月19日
愛媛大学
広島大学
名古屋工業大学
広島市立大学
高エネルギー加速器研究機構
高輝度光科学研究センター
島根大学
奈良先端科学技術大学院大学


【研究成果のポイント】

・ 蛍光X線ホログラフィーは特定元素周りの3次元的な原子配置を可視化する構造解析手法。しかし、そのシグナルが微弱なため、高圧下の測定はできていなかった。
・ 大型放射光施設SPring-8の強力な次世代X線、ダイヤモンドアンビルセルおよびナノ多結晶ダイヤモンド(NPD=ヒメダイヤ)を組み合わせた測定システムを構築して高圧下の測定に初めて成功した。
・ NPDからの回折X線をX線吸収フィルターで除去し、SrTiO3単結晶からのホログラフィー像を13.3 GPa(1 GPaは約1万気圧)の高圧まで明瞭に観測した。
・ 常誘電体SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)単結晶試料のSr周りの原子配置と加圧による圧縮過程を可視化した。
・ 圧力誘起の構造相転移の前駆現象の観測、原子間距離をコントロールした時のドープ元素の挙動など物質科学、材料科学に関わる研究トピックへの応用が期待される。
・ 多結晶性超硬材料であるNPDの新しい活用例となった。


愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の石松直樹教授、入舩徹男教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科のZhan Xinhuiさん(博士課程)、中島伸夫准教授、名古屋工業大学物理工学類の木村耕治准教授、林好一教授、広島市立大学情報科学研究科の八方直久准教授などからなる研究チームは、蛍光X線ホログラフィー(※1)の13.3 GPaまでの高圧下測定に初めて成功しました。
蛍光X線ホログラフィーは特定元素周りの3次元の原子配置を可視化できる優れた構造解析手法です。この手法は機能性材料の「どの部分が得られた機能に関わっているかを原子レベルで可視化したい」という要望に応える手法として広く活用されています。蛍光X線ホログラフィーに原子間距離をコントロールできる圧力装置を組み合わせれば、圧力誘起の超伝導物質や高圧下の惑星内部を構成する物質探索などにも適用でき、原子像の再生がより情報に富むものとなることが期待されます。
しかし、その蛍光X線ホログラフィーは微弱なシグナルのため、これまで高圧下の測定が実現していませんでした。そこで本研究チームは大型放射光施設SPring-8(※2)(BL37XU)の強力な次世代X線と高圧発生装置のダイヤモンドアンビルセル(※3)(DAC)およびナノ多結晶ダイヤモンド(※4)(NPD=ヒメダイヤ)を組み合わせた測定システム(図1)を構築することで高圧下での測定に初めて成功しました。今後、圧力誘起の構造相転移の前駆現象の観測、原子間距離をコントロールした時のドープ元素の挙動といった、物質科学、材料科学への広い応用が期待されます。愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)は、日本の高圧科学の中心的拠点として、高圧下での新物質の合成や新たな研究手法の開発に取り組んでおり、この成果はGRCが開発したNPDの新たな活用例としても重要な成果となりました。
本研究成果は、英国の国際科学雑誌「Journal of Synchrotron Radiation」に7月18日に掲載されました。


論文情報
掲載誌:Journal of Synchrotron Radiation
題 名:X-ray Fluorescence Holography under High-Pressure Conditions(高圧環境下での蛍光X線ホログラフィー)
著 者:Xinhui Zhan, Naoki Ishimatsu, Koji Kimura, Naohisa Happo, Halubai Sekhar, Tomoko Sato, Nobuo Nakajima, Naomi Kawamura, Kotaro Higashi, Oki Sekizawa, Hirokazu Kadobayashi, Ritsuko Eguchi, Yoshihiro Kubozono, Hiroo Tajiri, Shinya Hosokawa, Tomohiro Matsushita, Toru Shinmei, Tetsuo Irifune, and Koichi Hayashi
DOI: 10.1107/S1600577525005284



図1 (左)実験セットアップの概略図と(右)SPring-8 BL37XUにおける実験の写真。


【詳細】
研究の背景:
 物質の元素の組成をわずかに変えるだけで材料特性が変わることはよく起こります。近年のナノテクノロジーでは原子レベルでの調製を経て優れた機能性材料が生み出されています。一方、この材料特性を理解するために、あるいはその機能性をより高度化・高性能化するために、「得られた特性・機能に関わっているのは材料のどの部分なのか、を原子レベルで明らかにしたい」という要望が高まっています。このようなニーズに応える放射光実験手法として、任意の元素を対象にできる広域X線吸収微細構造(EXAFS)や蛍光X線ホログラフィーが挙げられます。EXAFSはX線吸収元素を中心とした動径方向、つまり一次元に投影された原子配置が得られます。これに対し、蛍光X線ホログラフィーはX線吸収元素を中心とした三次元の原子配置を与える優れた特長があります。原子間距離を自在にコントロールできる高圧と蛍光X線ホログラフィーを組み合わせれば、原子レベルの構造可視化に「圧力」という新たなパラメーターを加えることができ、材料科学や物性研究にとって蛍光X線ホログラフィーはより重要な手法となるはずです。


研究内容と成果:
しかし蛍光X線ホログラフィーは試料からの蛍光X線強度に対して0.1%程度にしかならない微弱な散乱シグナルを抽出する必要があるため、高圧下での測定は簡単ではありません。それは、常圧での実験では不要な高圧発生装置による邪魔(ノイズ)が発生するためです。例えば、高圧発生装置であるDACの素材として利用される一般的な単結晶ダイヤモンドは、試料からの蛍光X線を光源とする擬コッセル線を発生させます(※5)図2a)。これが強いノイズとなって試料からのホログラム像を完全に打ち消すため、高圧下での蛍光X線ホログラフィー測定は実現していませんでした。



図2 DAC中のSrTiO3単結晶試料から得られた高圧下ホログラム像。NPDアンビルとYフィルターによって、高圧下でもSrTiO3試料の単結晶性に由来するコッセル線を含む明瞭なホログラム像が得られた。

そこで、本研究チームはナノ多結晶体のダイヤモンド(NPD)をアンビルとして用いることで擬コッセル線の除去を試みました。図2bに示すように今回試料とした常誘電体単結晶試料SrTiO3(※6)のSrからの蛍光X線によるホログラム像が鮮明に観測されました。このホログラム像ではSrTiO3試料の単結晶性に由来するコッセル線(※5)も観測されています。一方、NPDは擬コッセル線を発生しない代わりにその多結晶性から、 粉末回折パターン(※7)を試料のホログラム像に重畳させます。このノイズを取り除くために、イットリウム(Y)金属箔を粉末回折パターンの除去フィルターとして二次元検出器の前に設置しました(図1)。この結果、図2cと図2dに示すように試料SrTiO3のみの明瞭なホログラム像とコッセル線の抽出に13.3 GPaまでの高圧下で成功しました。この時、金属箔を揺動させることで箔の均質性を高めることもノイズ除去に重要だと分かりました。
13.3 GPaの最大圧力まで得られたホログラム像からは、圧力を加えるに従って結晶格子が収縮することに伴う連続的な変化が観測されました。得られたホログラムを全球のホログラム像に拡張し、これをフーリエ変換することで得た1.3 GPaでのSr原子周りの原子配置を例として図3に示します。このように高圧下においてある一つのSrの周辺のTi原子や別のSr原子の配置を明瞭に観測することに成功しました。



図3 高圧下ホログラム像から再生されたSrTiO3の原子像。


多結晶の超硬材料であるNPDは天然単結晶ダイヤ特有のノイズを発生しないために、高圧下のX線吸収分光測定において優れた特性を発揮します。そのためSPring-8や欧州放射光施設(ESRF)のような世界の主要な放射光施設で利用されています。今回の結果は、同じX線分光技術の一つである蛍光X線ホログラフィーの実験においてもNPDの優れた材料特性が生かせることを示した成果といえます。


今後の展開:
超伝導状態の発現に関連する圧力誘起の構造相転移の前駆現象の観測、特徴的な物性に寄与する極微量添加元素(ドープ元素)における原子間距離をコントロールした時の挙動といった、物質科学、材料科学への広い応用が期待されます。今回の高圧下蛍光X線ホログラフィー測定の成功は「得られた特性・機能に関わっているのは材料のどの部分なのかを原子レベルで可視化したい」というこれまでの研究目的をさらに発展させることができ、「材料の局所構造がどのような変形を受けた場合に機能が発現するか?」という、より高度化したニーズにも応えられます。今後、測定可能な圧力領域を100 GPa以上の超高圧下に拡張できれば、圧力誘起超伝導物質や惑星内部の構成物質の再現など、常圧では想像できない現象に対して原子レベルの構造観測も可能となるかもしれません。


この成果は愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター 石松直樹、新名亨、入舩徹男、広島大学大学院先進理工系科学研究科 Zhan Xinhui、中島伸夫、名古屋工業大学物理工学類 木村耕治、林好一、広島市立大学情報科学研究科 八方直久、熊本大学産業ナノマテリアル研究所 Halubai Sekhar、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所 佐藤友子、高輝度光科学研究センター 河村直己、東晃太朗、関澤央輝、門林宏和、田尻寛男、兵庫県立大学理学研究科 江口律子、岡山大学異分野基礎科学研究所 久保園芳博、島根大学材料エネルギー学部 細川伸也、奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 松下智裕の共同実験として実施されました。


【研究助成】
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業・学術変革領域研究(A)「超秩序構造が創造する物性科学」、課題番号:20H05878、20H05879、20H05881、20H05884、21H05567、21H05569、23H04117

科学技術振興機構(JST)「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」、課題番号:JPMJFS2129

SPring-8一般利用課題、課題番号:2022A1011、2022B1022、2023A1022、2023B1520、2024A1277


【用語解説】


※1. 蛍光X線ホログラフィー
ホログラフィーは物体を三次元的に可視化する光学技法であり、紙幣やクレジットカードの偽造防止など身の回りで活用されている。物体に散乱された光(物体波)と散乱されずに通過した光(参照波)との干渉パターンを記録したものはホログラムと呼ばれ、得られたホログラムに光を照射すると、元の物体があたかもそこにあるかのような三次元像を再生することができる。蛍光X線ホログラフィーは、この技術をX線に適用して原子レベルの像再生に応用したものである。蛍光X線発生原子から球面波として発する蛍光X線(参照波)を周辺原子が物体波として散乱した時、参照波と物体波の干渉パターンがホログラフィー像となる。


※2. 大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。


※3. ダイヤモンドアンビルセル
上下一対のダイヤモンドで試料を挟み込み高圧を発生する装置。試料を加圧するダイヤモンド先端の平らな部分をキュレットと呼び、キュレット径を選択することで数十万気圧から数百万気圧の高圧実験が可能となる。可視光とX線に対して透明なダイヤモンドの性質を利用して各種光学測定、放射光実験の高圧下測定に広く利用されている。


※4. ナノ多結晶ダイヤモンド
愛媛大学GRCと住友電工との共同研究によって生み出された超高硬度ナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)。「ヒメダイヤ」とも呼ばれる。約10ナノメーター(1ナノメーターは百万分の1ミリメートル)のダイヤモンド微粒子が 固く結合したもので、世界で最も硬いダイヤモンドとして知られる。X線吸収や中性子回折の高圧実験において優れたアンビル素材としても活用されている。


※5. コッセル線と擬コッセル線
試料が長周期構造を持つ単結晶の場合、散乱原子が周期的に配列しているため特定の方位のホログラム像は参照波と物体波の干渉がブラッグの条件を満たし、蛍光X線ホログラムの強度に比べて数十~数百倍の強度をもった回折X線が測定されるホログラム像となる。この回折X線は線状のイメージとして記録され、コッセル線という。擬コッセル線もコッセル線と同様に発散X線を光源(参照波)とした回折像であるが、発散X線の発生源と試料が有意に離れている場合に擬コッセル線という。高圧下の蛍光X線ホログラフィーの場合は、SrTiO3試料からの蛍光X線が参照波となり、その直上にある単結晶ダイヤモンドアンビルが物体波を生じ、その周期性から擬コッセル線が発生する。


※6. SrTiO3
チタン酸ストロンチウム。よく知られた常誘電体試料の一つ。常温常圧下では立方晶を取るが、低温下あるいは高圧下では正方晶に相転移する。良質な単結晶が得られることから薄膜形成での基盤材料として広く使われる。これらの性質から今回の実験試料として選択した。


※7. 粉末回折パターン
結晶などの原子が規則正しく配列した物質にX線が入射したとき、原子によって散乱されたX線がお互いに干渉して特定の方向で強め合ったり弱め合ったりする回折現象が知られる。これはX線の波としての性質によるものである。いろいろな結晶方位を持つ粉末試料や多結晶試料においては、X線が回折すると結晶方位のランダム性からリング状の回折像が得られる。これが粉末回折パターンとなる。


問い合わせ先
(研究成果に関すること)
愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター
教授 石松 直樹

名古屋工業大学物理工学類
准教授 木村 耕治

(プレスリリースに関すること)
愛媛大学
総務部広報課
TEL: 089-927-9022 E-mail: kohoatstu.ehime-u.ac.jp

先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)
TEL: 089-927-8165 E-mail: grcatstu.ehime-u.ac.jp

広島大学
広報室
TEL: 082-424-3749 E-mail : kohoatoffice.hiroshima-u.ac.jp

名古屋工業大学
企画広報課
TEL: 052-735-5647 Email:pratadm.nitech.ac.jp

広島市立大学
事務局企画室企画グループ
TEL: 082-830-1666 E-mail: kikakuatm.hiroshima-cu.ac.jp

高エネルギー加速器研究機構(KEK)
広報室
TEL: 029-879-6047 E-mail:pressatkek.jp

島根大学
企画部企画広報課広報グループ
TEL: 0852-32-6603 E-mail: gad-kohoatoffice.shimane-u.ac.jp

奈良先端科学技術大学院大学
管理部企画総務課渉外企画係
TEL: 0743-72-5063 E-mail:s-kikakuatad.naist.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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(研究成果に関すること)
愛媛大学先端研究院地球深部ダイナミクス研究センター
教授 石松 直樹

名古屋工業大学物理工学類
准教授 木村 耕治

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TEL: 089-927-8165 E-mail: grcatstu.ehime-u.ac.jp

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新種の磁石に光を当てる 高機能な有機磁性材料の実現に期待


2025年7月10日
国立大学法人東北大学
公益財団法人高輝度光科学研究センター
関西学院大学


【発表のポイント】

●新種の磁石の候補とされる有機系結晶の光学特性から磁気的性質とその起源を明らかにしました。これにより、一般に弱い磁性しか示さない有機系物質においても、高機能な磁気デバイスの実現が期待されます。
●有機磁性体(磁石)の光学特性を測定するために、磁性体に限らずあらゆる物質に適用可能な光の反射に関する簡潔な一般公式を厳密に導出し、それに基づく測定法を開発しました。これは従来極めて複雑だったあらゆる物質における光学特性を計測する新しい手法の開拓にも繋がります。


磁石に光を当てると、その光はどうなるでしょうか。もちろんどんな磁石でも光は反射します。そして、反射光から磁石の性質を知ることができます。では、どんな磁石からの反射光でもその性質を知ることができるかというと、これまではそうではありませんでした。近年見つかった「くっつかない」タイプの磁石がまさにそれに該当し、その解明には学術と応用の両面からの期待が高い一方で、その性質を光で調べるためには大きな壁がありました。東北大学金属材料研究所の井口敏 准教授、高輝度光科学研究センターの池本夕佳 主幹研究員、森脇太郎 主幹研究員、関西学院大学理学部物理・宇宙学科の伊藤弘毅 教授、東北大学理学研究科物理学専攻の岩井伸一郎 教授、東北大学金属材料研究所の古川哲也 助教、佐々木孝彦 教授からなる研究グループは、新種の磁石の候補とされる有機結晶に、新たに求めた光に関する一般公式を適用し、その磁気的性質と起源を解明しました。
本研究成果は、2025年7月7日(現地時間)に アメリカ物理学会が発行する学術誌 Physical Review Researchに掲載されました。

論文情報
雑誌名: Physical Review Research
題名 :Magneto-optical spectra of an organic antiferromagnet as a candidate for an altermagnet
著者:Satoshi Iguchi, Hiroki Kobayashi, Yuka Ikemoto, Tetsuya Furukawa, Hirotake Itoh, Shinichiro Iwai, Taro Moriwaki, and Takahiko Sasaki
*責任著者:東北大学 金属材料研究所 准教授 井口敏
DOI:10.1103/nnz3-tq7y


【詳細】
研究の背景

一般的に知られている磁石は互いにくっつきますが、世の中には近くに置いてもくっつかない磁石があります。最近の研究により、後者のくっつかない磁石には2種類が存在すること、その内の1つは新種の磁石であることが分かりました。それは交替磁性体と名付けられ、学術と応用の両面から注目されています。交替磁性体は第3の磁性体(磁石)とも言われています。第1は強磁性体と呼ばれる通常のくっつく磁石で、第2は反強磁性体と呼ばれ、物質内でミクロな棒磁石のNS極が反対向きに交互に並ぶ構造を有しており、どのようにしてもくっつかない磁石です。第3の磁性体である交替磁性体は第2の反強磁性体に似てくっつかないタイプである一方で、第1の強磁性体に似た特徴も持っています。つまり、磁石としては弱いにもかかわらず、強い磁石のように磁気を帯びた電流を流すこともある不思議な磁石です。そのためこれまで反強磁性体として「間違って」分類されていた物質がたくさんあることが分かってきました。そこで、その不思議な性質を解明することが学術的に注目されており、また応用面では強磁性に似た性質を利用した高機能なデバイスを実現することが期待されています。ここで重要なのは、その性質は重い元素の磁気的相互作用が必須ではないということです。そのため、軽い元素でできた環境負荷の小さい有機結晶でも良いと言うことができます。このたびの研究では、研究グループは有機系の交替磁性体の候補物質に着目しました。


今回の取り組み

研究グループは、有機分子でできた交替磁性体の候補κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl (図1)の交替磁性的な不思議な機能を磁気光学カー効果(注1)という現象を観測して明らかにしようと考えました。第1の磁性体である強磁性体に光をあて、その反射光を調べると、光電場の振動方向(偏光(注2)と呼ぶ)が回転していることが分かります。磁気光学カー効果はこの偏光の回転現象のことで、MOディスクやMDなどの記録媒体で利用されてきた現象です。記録媒体で利用できる理由は、磁極NSが反転していると偏光の回転方向が逆になるため記録ビットの違いが分かるからです。第2の反強磁性体ではこの現象は起こらない一方で、第3の交替磁性体は第1の強磁性体と性質が似ており同現象が起こると理論的には指摘されていますが、実験的に正確に検証することは困難です。例えば、直方体の結晶構造を持つ物質で磁気光学カー効果を測定すると、図2のように傾いた楕円であることまでは分かります。ところが、その結果から磁性の情報をより明確に引き出すための物性量(非対角光学伝導度(注3)と呼ぶ)を計算する方法は確立していませんでした。立方体のように90度回転しても同じ構造である物質の場合は問題ありません。この場合の楕円の傾きと膨らみ具合の測定値から非対角光学伝導度を求める「限定的な」公式はこれまでも広く知られています。しかし、今回取り扱った有機結晶の構造は直方体であるため、この「限定的な」公式を用いることができません。そこで研究グループは、電磁気学で最も重要な基礎方程式であるマクスウェル方程式(注4)から、直方体だけでなく平行四辺形のように歪んだ結晶にも適用可能な「一般公式」(図3)を導出しました。これにより、ようやく目的物質の磁気光学カー効果が測定でき、その非対角光学伝導度をスペクトルとして正しく求めることに成功しました。スペクトルとは周波数依存性のことで光の場合は色の違いによる強度分布と捉えることができます。また、測定は大型放射光施設SPring-8(注5)赤外物性ビームラインBL43IR(注5)で行いました。 得られた非対角光学伝導度スペクトル(図1)には3つの特徴があることが分かりました。1つはスペクトルの端に磁極状態の差を示すピークがあることです。磁石としてはくっつきませんが、ミクロに観察するNS極が反対に並んでいることが確認できます。別の2つの特徴はスペクトルの中間部にあります。図1では非対角光学伝導度を複素数(実部と虚部)で表しています。実部は楕円の傾きに対応しており、一般的には偏光の回転や結晶の歪みを表します。今回の結果では交替磁性に関わる結晶の歪みを検出しました。一方、虚部は楕円の膨らみに対応しており、反射光の傾きが時間的に遅れることを表します。これは光によって物質内に生じた電流が回転する効果とみなすことができます。このように、「一般公式」から非対角光学伝導度を正しく求めることで、交替磁性体の磁性、結晶歪み、電流回転という異なる起源がそれぞれ明らかになりました。


今後の展開

本研究の主な成果として、以下の2点をあげることができます。
第一に、あらゆる物質に適用可能な光学公式を導出したことで、楕円偏光の測定から非対角光学伝導度を得るための原理を確立することができました。第二に、それを有機交替磁性体に適用し、得られた非対角光学伝導度スペクトルから、さまざまな性質を明らかにすることができました。これらの成果から学術および応用上の波及効果が得られると期待できます。学術面では、非対角光学伝導度は磁性の調査に欠かせない物性量の1つであるため、基礎物性の研究対象の幅と深さが格段に広がります。特に、スペクトルを定量的に求めることで、対称性など定性的な性質だけでは分からないような具体的な磁性関連メカニズムの解明に大きく役立ち、「第3の磁石」の新発見に繋がります。さらに、非対角光学応答には磁気光学効果だけでなく磁気と無関係なキラル物質(注6)光学活性(注6)もあるため、これらの精密な計測により学術的な理解が大きく前進すると考えられます。応用面では、本研究で得られた光学公式と測定原理は個々の物質には依存しない一般的なものであるため、これらを用いることで楕円偏光解析(エリプソメトリ)(注1)などに関連する光学計測技術の精密化への貢献が期待されます。



図1. 左から順に、有機結晶を横から見た構造、上から見た分子配列と矢印で描いたミクロな磁石(この結晶では2分子がペアになっているので丸で囲んでいます)、対角と非対角の光学伝導度スペクトル。



図2. 測定方法の模式図。試料に直線偏光を入射し、楕円に偏光した反射光を、光弾性変調器(注7)を用いて変調し、検出された光強度の直流および変調成分から楕円の傾きと膨らみ具合を算出することができます。



図3. 行列形式の反射率から伝導度を求める公式。下段は非対角誘電率の具体的な表式。 ωは光の角周波数、ε0は真空の誘電率。



【謝辞】

本研究は、科学研究費補助金、学術変革領域研究(A)(代表:佐々木孝彦、JP23H04015)、基盤研究(B)(代表:佐々木孝彦、JP23K25811)、基盤研究(B)(代表:伊藤弘毅、JP23K22420)、挑戦的研究(萌芽)(代表:古川哲也、JP23K17659)基盤研究(C)(代表:井口敏、JP23K03271)、基盤研究(B)(代表:佐々木孝彦、JP23H01114)、 基盤研究(B)(代表:伊藤弘毅、JP22H01149)、および高輝度光科学研究センター、SPring-8において赤外ビームラインBL43IRを用いた課題(2024B1236, 2024A1193, 2023B1489, 2023B1397, 2023A1462, 2023A1229, 2022B1514, 2016A0073)の支援を受けました。


【用語解説】


※1. 磁気光学カー効果、カー回転角、カー楕円率、楕円偏光解析
図2のように、磁性体に直線偏光(注2)を照射すると反射光の電場が傾いた楕円偏光(注2)になり、磁極(NS)が反転すると回転方向が逆になります。この現象を磁気光学カー効果といい、その名称は発見者のジョン・カー(John Kerr)に由来します。楕円の傾き角をカー回転角、楕円の膨らみ具合をカー楕円率といいます。一方、楕円偏光自体は磁性と無関係であり、楕円偏光の測定、解析を行うことを楕円偏光解析またはエリプソメトリと呼び、測定物の屈折率などを知るために用いられます。


※2. 直線偏光、楕円偏光
光の電場がどのように振動するかを表したものです。直線偏光は光電場が直線的に振動する光で、楕円偏光は図2のように楕円に沿って振動します。


※3. 非対角、対角の光学伝導度
対角とは、図3の反射率行列の中だとrxryのように左上から右下へ対角線上に並んだ要素です。非対角は残りのrxyryxのようなx(横)成分とy(縦)成分を入れ替える要素で、一般に回転や歪みの効果を表します。対角、非対角ともに図3上段の量の全てにあります。


※4. マクスウェル方程式
ニュートンの運動方程式と並ぶ古典物理学の基本方程式で、光も含め電気と磁気の現象を説明する4つの方程式です。


※5. 大型放射光施設SPring-8、赤外物性ビームラインBL43IR
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。BL43IRでは赤外放射光を使用した実験が可能です。


※6. キラル物質、光学活性
キラルは掌性ともいい、キラル物質には通常、右手と左手の関係に対応する2種類があります。ショ糖や酒石酸は有名なキラル物質で、光を通すとその偏光が回転しますが、左右が異なると回転方向が逆になります。このような現象を光学活性といいます。


※7. 光弾性変調器
石英ガラスなどでできた光学素子で、屈折率を電気的に制御することで、透過光の偏光状態を変化させることができます。図2の実験では、楕円偏光を傾いた直線偏光と傾いていない楕円偏光に分離するために使用しています。


本件に関するお問い合わせ先
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター (SRIS)
特任准教授 井口敏

関西学院大学理学部物理・宇宙学科
教授 伊藤弘毅


(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
Email: press.imrgrp.tohoku.ac.jp

高輝度光科学研究センター(JASRI)
利用推進部 普及情報課
TEL: 0791-58-2785
Email: このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。

学校法人関西学院
広報部企画広報課(担当:中谷、和田)
TEL: 0798-54-6873
Email: kg-kohokwansei.ac.jp

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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TBABハイドレートの結晶構造を解明
80年間未解明であった蓄熱材料の構造をシンクロトロンX線で解明


2025年7月18日
横浜国立大学
大阪大学
高輝度光科学研究センター


本研究のポイント

・空調用の蓄熱材としての応用が期待されているTBABハイドレートの主要相(TBAB・26H2O)の結晶構造を初めて解明
・構造解明により、蓄熱材料の設計指針および蓄熱効率の向上につながり、今後の高性能蓄熱材開発が加速
・水素結合ネットワーク中にTBABを高密度にパッキングする新しいメカニズムを解明。今後、水系機能性材料設計への波及に期待

横浜国立大学大学院 工学研究院の室町実大准教授とパナソニック株式会社の町田博宣博士、大阪大学大学院基礎工学研究科の菅原 武助教、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の安田伸広研究員(研究当時)および増永啓康主幹研究員(技術担当)、産業技術総合研究所の研究グループは、空調などに用いられる蓄熱材料「TBABハイドレート(TBAB・26H2O)」の結晶構造を大型放射光施設SPring-8における高精度なX線回折実験により明らかにしました。この構造は1940年に初めて報告されて以来80年以上にわたり未解明であり、材料・プロセス開発や熱設計の妨げとなっていました。今回の成果により、水を基盤としたハイドレート材料の構造設計が大きく前進し、今後のCO2削減に貢献する次世代のエネルギー貯蔵技術の進展が期待されます。
本研究成果は、米国化学会の国際科学雑誌「Crystal Growth & Design」(2025年7月18日付)に掲載されました。

論文情報
雑誌名: Crystal Growth & Design
題名 :Solving the 80-Year Structure Mystery: Definitive Crystal Structure of TBAB Hydrate Resolved with Synchrotron Radiation
著者:室町実大、安田伸広、増永啓康、菅原武、町田博宣
DOI:10.1021/acs.cgd.5c00364



図. 本研究で解明されたTBABが占有する空間のサイズ。 従来12面体をTBABが占有することは報告されておらず、12面体を利用することによってTBABが高密度にパッキングされていることを本研究で明らかにした。


【社会的な背景】

ハイドレートは水分子が分子やイオンを包接してできる氷状の物質です。天然ガス資源として期待される海底メタンハイドレートのほか、蓄熱材としての応用でも注目されています。臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB[用語1])ハイドレート[用語2]は非可燃性でありながら適度な融点(約12 ℃)を持ち、空調や物流の分野での蓄熱材として期待されています。TBABハイドレートには26水和物と38水和物の2種類が存在し、それぞれ異なる蓄熱特性を有しています。比較的安定なTBAB·26H2Oハイドレートの結晶構造は、発見から80年以上が経過しても未解明のままであり、蓄熱技術として近年盛んに研究開発が行われるなか正確な構造に基づく材料・プロセス設計や性能評価が困難でした。


【研究成果】

本研究では、TBAB·26H2Oハイドレートの結晶構造を、兵庫県の大型放射光施設SPring-8 [用語3]のBL02B1、BL05XU、BL40B2における単結晶X線回折法を用いて解析しました。解析の結果、TBAB·26H2Oは空間群 (Par{4}2_1c) をもつ正方晶構造であり、そのc軸は従来のTS-I型構造の4倍に相当する約50 Åの大きな格子を有していることが明らかになりました。
構造解析により、水分子が水素結合によって構成する12面体ケージ(Dケージ)と14面体ケージ(Tケージ)からなる複合ケージ(D′4T4ケージ)にTBABが2つ共棲するという、これまでに報告のない新しい配置様式が明らかとなりました。さらに、臭素イオン(Br)が水分子の水素結合ネットワークの一部を構成し、ケージ構造の安定化に寄与していることが判明しました。
得られた構造モデルは、これまで粉末X線回折実験により観測されていたTBAB·26H2Oの回折パターンと高い一致を示し、これまでの仮説的構造モデルでは説明できなかった回折ピークの整合性が得られました。本研究によって、TBABが高い柔軟性をもってさまざまな水素結合フレームワークに適応することが確認されました。
さらに、構造情報に基づき結晶密度および水和数を用いて蓄熱密度を評価した結果、既知のTBAB·38H2O(斜方晶)と比較して同等の空間効率を持つことが示され、実用的な冷熱蓄熱材料としての有効性が改めて確認されました。


【今後の展開】

本研究で明らかとなった「水素結合ネットワーク中へのイオンの収容」という構造的特徴は、ハイドレートに限らず、水系高分子、界面活性剤、さらにはシリコン系クラスレートなど広範な水系構造材料の設計にも応用が可能です。また、本研究で得られた構造情報は、ハイドレートにおける準安定相の形成や相転移挙動の解明にも寄与し、水の構造化という深淵な現象の理解にも貢献します。カーボンニュートラル社会構築に向けた蓄熱技術開発においては正確な構造に基づく材料・プロセス設計や性能評価にも活用され、将来的には、CO2分離・貯蔵、省エネ型空調など、多様な応用展開への橋渡しが期待されます。


【謝辞】

本研究における放射光実験は、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の承認(課題番号:2021A1006、2021A1007、2020A8101、2019B8048、2018B8038、2017B1027)を受けて実施されました。また、本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による委託事業である未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発(TherMAT)(事業番号:JPNP15007)の支援を受けて実施されました。


【用語解説】


[用語1]TBAB
臭化テトラブチルアンモニウム。4つのブチル基を持つアンモニウム塩で、水と混合することで約12 ℃以下の温度でハイドレートを形成。疎水性―親水性が混在する系において両相をまたがって機能する相間移動触媒としても利用されている。


[用語2]ハイドレート
水分子がガスやイオンなどのゲスト分子をかご状(ケージ)の水素結合ネットワークに取り囲み、氷状の結晶を形成したもの。天然ガスの輸送や蓄熱材に応用される。


[用語3]大型放射光施設SPring-8
理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。


本件に関するお問い合わせ先
(研究に関すること)
横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門 准教授 室町実大

(報道に関すること)
横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
Email:pressynu.ac.jp
Tel:045-339-3027

大阪大学 基礎工学研究科 庶務係
Email:ki-syomuoffice.osaka-u.ac.jp
Tel:06-6850-6131

高輝度光科学研究センター(JASRI)利用推進部 普及情報課
Email:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。
Tel:0791-58-2785

(SPring-8 / SACLAに関すること)
公益財団法人高輝度光科学研究センター
 利用推進部 普及情報課
TEL:0791-58-2785 FAX:0791-58-2786
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(研究に関すること)
横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門 准教授 室町実大

(報道に関すること)
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Tel:045-339-3027

大阪大学 基礎工学研究科 庶務係
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Tel:06-6850-6131

高輝度光科学研究センター(JASRI)利用推進部 普及情報課
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(SPring-8 / SACLAに関すること)
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高品質単結晶によりIGZOの本質的な電子状態を解明
~次世代ディスプレイの性能向上に新たな指針を提供~


2025年7月9日
東京理科大学
高輝度光科学研究センター


研究の要旨とポイント

➢光フローティングゾーン法により作製された高品質なInGaZnO4(IGZO)単結晶に対して、硬X線光電子分光(HAXPES)実験を行い、バルク固有の電子状態を明らかにしました。
➢これまで結晶中にランダムに存在すると考えられていた酸素欠陥について、In原子の周囲に優先的に形成されていることを発見しました。
➢バンドギャップ内に存在するサブギャップ状態について、伝導帯下端近傍は酸素欠陥に起因する一方、価電子帯上端近傍は結晶性の低下とも密接に関連していることを見出しました。
➢さらなる研究の発展により、次世代ディスプレイや透明エレクトロニクスデバイスの性能向上に向けた新たな設計指針が得られることが期待されます。


東京理科大学 先進工学部 物理工学科の芝田 悟朗助教(研究当時、現日本原子力研究開発機構)、齋藤 智彦教授、宮川 宣明教授、高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 光電子分光計測チームの保井 晃主幹研究員らの共同研究グループは、硬X線光電子分光法(HAXPES)(*1)により、InGaZnO4(IGZO)単結晶の電子状態を解析し、結晶中の酸素欠陥がIn原子の周囲に偏って存在していることを明らかにしました。また、バンドギャップ内に形成されるサブギャップ状態(*2)が、酸素欠陥に加えて、単結晶やアモルファスなどの結晶性と深く関連していることを見出しました。

IGZOは透明導電性酸化物の一種で、高精細フラットパネルやフレキシブル基板の薄膜トランジスタ(TFT)材料として利用されています。しかし、従来の研究の多くはアモルファスIGZOを対象としており、本質的な電子構造は十分に解明されていませんでした。その主な要因の一つとして、IGZO単結晶の作製が困難であったことが挙げられます。
2019年、宮川教授率いる研究グループが、光フローティングゾーン法(*3)により、大型IGZO単結晶の作製に世界で初めて成功し、その詳細な評価が可能となりました。そこで本研究グループはIGZO単結晶に対して、物質の内部まで測定可能であるHAXPESを用いて、その電子構造の解明を試みました。

本研究では、大型放射光施設SPring-8のBL09XU(一部BL47XU)におけるHAXPES測定によりAs-grown試料(作製したままの、酸素欠陥がある結晶)とAnnealed試料(As-grown試料を酸素雰囲気下でアニールして酸素欠陥を埋めた結晶)の電子状態を評価しました。その結果、As-grown試料内の酸素欠陥がIn原子周辺に優先的に形成されることを発見しました。また、酸素アニール後もヒドロキシ基(–OH)による結合が存在していることが確認されました。伝導帯下端近傍のサブギャップ状態は、As-grown試料でのみ明確に観測されました。一方、アモルファス試料では顕著に観測される価電子帯上端近傍のサブギャップ状態は、As-grown,Annealedいずれの試料においてもほとんど観測されませんでした。これらの結果から、価電子帯上端近傍のサブギャップ状態の形成には、結晶性の低下が重要な役割を果たしていることが示唆されました。

本研究成果は、2025年6月16日に国際学術誌「Applied Physics Letters」にEditor’s Pickとしてオンライン掲載されました。

論文情報
雑誌名: Applied Physics Letters
題名 :Hard x-ray photoemission study of bulk single-crystalline InGaZnO4
著者:Goro Shibata, Yunosuke Takahashi, Mario Okawa, Akira Yasui, Yasumasa Takagi, Yusuke Kawamura, Nobuaki Miyakawa, Naoki Kase, Noriaki Hamada, and Tomohiko Saitoh
DOI:10.1063/5.0271655



図 InGaZnO4の結晶構造、単結晶(As-grown試料とAnnealed試料)写真、およびIn 3d内殻・価電子帯HAXPESスペクトル


【研究の背景】

透明導電性酸化物は、太陽電池やディスプレイデバイスへの応用から注目を集めており、その中でも、InGaZnO4(IGZO)は、優れた電気伝導性と大きなバンドギャップを持つため、広く研究されています。しかし、IGZOを使用した薄膜トランジスタ(TFT)において、デバイスの不安定性、特に、光照射下負バイアス負荷不安定性(NBIS)(*4)が課題となっています。この現象は、バンドギャップ内にキャリアを捕える「サブギャップ状態」が形成されていることを示唆しており、実際に伝導帯下端近傍および価電子帯上端近傍にサブギャップ状態が形成されていることが光学測定や光電子分光法により実験的に確認されています。
サブギャップ状態の起源を解明するため、これまでにさまざまな研究が行われてきましたが、従来研究の大半はアモルファスIGZOを対象としていました。その主な理由の一つは、物質本来の物性測定が可能な大型IGZO単結晶が入手困難だったためです。このような背景から、IGZO単結晶の本質的な電子構造は十分に解明されていませんでした。
近年、宮川教授らが光フローティングゾーン法により、高品質なIGZO単結晶の合成に成功したことで、IGZOの物性を詳細に評価することが可能となりました。そこで、本研究グループは、硬X線光電子分光測定(HAXPES)を用いて、サブギャップ状態を含むIGZOの詳細な電子構造を明らかにしようと試みました。


【研究結果の詳細】

As-grown試料とAnnealed試料の作製
光フローティングゾーン法により、IGZO単結晶を作製しました。酸素欠陥の影響を検討するため、作製した結晶(As-grown試料)に加え、酸素雰囲気下でアニールした結晶(Annealed試料)を準備しました。結晶中の酸素欠陥によって生成された電子キャリアは赤色光を吸収して青色光を透過させるため、結晶は青く見えます。そこで、研究グループは単結晶の色の変化を酸素原子が欠陥を埋める指標として用いました。そのため、As-grown試料の青みがかった色が完全に消えて透明になるまで、0.1 MPaの酸素圧力下、1000℃でアニールしました。

HAXPES実験
HAXPES実験は、大型放射光施設SPring-8のBL09XU(一部BL47XU)において、入射光エネルギー7.9 keVを用いて実施しました。測定用の清浄表面は高真空中で単結晶試料を劈開することで準備しました。また、全ての測定は室温で行われました。
②-1 酸素欠陥分布の評価
内殻HAXPESスペクトルを詳細に解析することで、As-grown試料とAnnealed試料の酸素欠陥の分布を評価しました。その結果、Annealed試料ではIn、Zn、Ga陽イオンの環境が一様であるのに対し、As-grown試料では酸素欠陥に起因する2つの異なる陽イオン環境が存在することが明らかとなりました。これらは、酸素欠陥に隣接する陽イオンサイトと酸素欠陥から離れた陽イオンサイトを表しています。また、As-grown試料のIn 3dスペクトルの非対称性が他のスペクトルよりも顕著であることから、酸素欠陥がInO2層に優先的に形成されることが判明しました。この結果は、InO2層における酸素欠陥の形成エネルギーがGaZnO2層よりも小さいとする理論計算の結果とも一致しています。
②-2 サブギャップ状態形成の評価
価電子帯HAXPESスペクトルの測定結果から、As-grown試料において、伝導帯下端近傍のサブギャップ状態の形成が確認されました。この状態は過去の研究においても確認されており、酸素欠陥による伝導帯下端の局在化、格子間水素、酸素欠陥によって形成される陽イオン-陽イオン結合など、いくつかのメカニズムが理論的に提案されていました。一方、Annealed試料では、このサブギャップ状態の形成が確認されなかったことから、酸素欠陥に関連していることが明らかとなりました。 また、As-grown試料とAnnealed試料の価電子帯上端近傍のサブギャップ状態が、アモルファス試料と比較して、大幅に抑制されていることがわかりました。以上の結果から、これらサブギャップ状態の形成には、酸素欠陥だけでなく、結晶性の低下も大きく影響していると結論付けました。


本研究を主導した東京理科大学の齋藤教授は、「本研究は、学科の同僚である宮川教授がInGaZnO4の単結晶作製に成功したことを受けて、その基本的な電子構造を把握することを目的としてスタートした研究です。内殻HAXPESスペクトルの解析から酸素欠陥の分布が明らかになるとは、全く予想していませんでした。このような『予測不能な発見』こそが研究の面白さであり、大きな動機付けとなっています」と、コメントしています。


※本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(17K05502, 21K04909)の助成を受けて実施したものです。また、SPring-8における放射光実験は、公益財団法人高輝度光科学研究センターの承認の下、実施されました(2018A1013, 2018B1049, 2018B1025, 2019A1433, 2019B1013, 2020A1258, 2020A1008, 2021A1415, 2021B1029, 2021B1457) 。


【発表者】

芝田 悟朗 東京理科大学 先進工学部 物理工学科 助教(研究当時、現 日本原子力研究開発機構)
齋藤 智彦 東京理科大学 先進工学部 物理工学科 教授
宮川 宣明 東京理科大学 先進工学部 物理工学科 教授
保井 晃    高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 光電子分光計測チーム 主幹研究員


【用語解説】


※1. 硬X線光電子分光法(HAXPES: Hard X-ray Photoemission Spectroscopy)
物質に硬X線(光エネルギーの高いX線)を照射し、その際に飛び出てくる電子の運動エネルギーを測定することにより、電子の状態を調べる表面分析法。硬X線を光源として使用することで、紫外線や軟X線(光エネルギーの低いX線)を光源とする従来の光電子分光法より深い物質内部(バルク)の電子状態を調べることができる。


※2. サブギャップ状態
本来電子が存在できないはずのバンドギャップ(禁制帯、価電子帯上端~伝導体下端のエネルギー帯)内に現れる電子準位。格子欠陥や不純物などの影響により形成される。材料の電気特性に大きな影響を与えるため、品質評価や性能向上において重要な指標となる。


※3. 光フローティングゾーン法
単結晶を育成する方法の一つ。原料となる多結晶の一部を光により融解させ、融解した部分を表面張力で保持しながら、原料棒と種結晶を相対的に移動させることで種結晶を成長させる。坩堝を使用しないため、不純物の混入が少なく、高純度の単結晶を育成できる。


※4. 光照射下負バイアス負荷不安定性(NBIS)
光照射下でトランジスタのゲート電極に負バイアスを加えると、しきい値電圧が時間とともに負方向へと変化していく現象。ディスプレイ素子において、NBISが進行するとトランジスタが本来のオフ状態を維持できなくなり、画素の切り替え制御が不能となるため、表示品質に深刻な影響を及ぼす。


本件に関するお問い合わせ先
【研究に関する問い合わせ先】
東京理科大学 先進工学部 物理工学科 教授
齋藤 智彦(さいとう ともひこ)

【報道・広報に関する問い合わせ先】
東京理科大学 経営企画部 広報課
TEL: 03-5228-8107 FAX: 03-3260-5823
E-mail: kohoadmin.tus.ac.jp

公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI) 利用推進部 普及情報課
TEL: 0791-58-2785 FAX: 0791-58-2786
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