放射光(X線)で小さなものを観察する大きな2つの施設

2021年夏の学校 実習概要


23件の実習課題を予定しています。受講者の皆さんにはこの中から2テーマを選択していただきます。ただし、特定のテーマに希望者が集中した場合、ご希望に添えるとは限りませんのでご了承下さい。また、装置故障等の不測の事態により予定が変更される場合がありますので、ご理解をお願い致します。


BL01B1:"その場" XAFS計測 --- 加藤 和男・伊奈 稔哲(JASRI)
BL14B2:XAFS分析の基礎 --- 大渕 博宣・本間 徹生(JASRI)・佐藤 眞直(JASRI/岡山大学)


・本実習は2つのビームラインで行われます。実習内容は若干異なりますが、学習する手法は同じであるため、一緒にして希望を募ります。ビームラインを個別に選択して希望することはできませんが、もしいずれかのビームラインでの実習を強く希望する場合には、事務局へのコメント欄に理由を記述してください。


(BL01B1)
XAFS法は、結晶構造を形成していない物質や、濃度が希薄な試料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、広い研究分野で利用されている。本実習では、まずXAFS計測を行うための放射光光学素子の位置調整と、試料調製について実習を行う。その後、触媒粒子の形成反応に対して、"その場"XAFS測定を行い、触媒粒子内でどのような構造変化や電子状態変化が起こるかを解析する。


(BL14B2)
XAFS法は、結晶化していない物質や、濃度が希薄な材料に対しても、局所構造や電子状態を解析できる手法として、触媒、電池、発光材料など様々な研究分野で利用されています。本実習では、XAFS計測を行うための試料調整と、その原理に忠実な透過法による測定およびフリーの解析ソフトを用いたスペクトル解析を行い、XAFS分析の基礎について学んで頂く予定です。


BL02B1:単結晶構造解析の入門 --- 野上 由夫(岡山大学)・杉本 邦久・安田 伸広・中村 唯我(JASRI)


単結晶は粉末結晶に比べ、以下の特徴を有する。1)晶系や結晶の対称性(空間群)の決定が容易である。2)並進対称性の破れ(格子変調)の検出も容易である。本実習では、単結晶構造解析の原理を解説し、半導体検出器を用いた回折装置で実際に測定を行い、低分子単結晶の原子座標を精密に決定する。


BL04B1:大容量高圧プレスと白色X線を用いたX線回折実験 --- 肥後 祐司(JASRI/茨城大学)・丹下 慶範(JASRI)


BL04B1は川井型大型プレスと放射光硬X線を利用して、高圧下での結晶構造変化や各種物性を測定するビームラインです。本実習では塩化カリウムの高圧相転移を約2万気圧の高圧下でその場観察します。高圧実験の手順のほか、白色X線を光源としたエネルギー分散型X線回折法の実習をします。


BL04B2:高エネルギーX線を用いたガラス・液体の構造解析 --- 尾原 幸治・山田 大貴・廣井 慧(JASRI)


最先端の機能性材料には、ガラスや液体が数多く存在します。ガラスや液体のような乱れた原子配列を解析するために、二体分布関数(Pair Distribution function, PDF)解析という手法が用いられます。本実習では、SPring-8の高エネルギーX線を用いたPDF解析によって、一見無秩序に思えるガラスの原子配列の解析を行います。


BL07LSU:合金の合成と光電子分光分析 --- 木村 隆志・松田 巌・原田 慈久(東京大学)


物質は光との相互作用によって様々な色を呈します。しかし色(うわべ)を見ても、その物質が何からできているか(本質)はわかりません。例えば、金と真鍮は同じ金色ですが、真鍮は2つの金属の混合物です。本実習では、物質の化学組成や、物性を支配する電子状態を直接調べることができる光電子分光法などを用いて、物質の色を決める要因について一緒に考察します。


BL10XU:ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧X線回折実験 --- 平尾 直久・河口 沙織(JASRI)


圧力は、物質の性質を支配する最も基本的な外部因子の一つである。高圧力を印可された物質は、1気圧とは全く異なる構造や物性を示す。ダイヤモンドアンビルセル(DAC)高圧発生装置を利用することにより、実験室で1万気圧を超える静的圧力を容易に達成できる。ビームラインBL10XUは、高圧力下での構造物性研究を推進するため、DACによる高圧その場X線回折実験が実施できる実験ステーションを有する。本実習では、DACによる高圧X線回折実験を通して、物質の構造に対する圧力効果と圧縮挙動を観察する。


BL11XU:半導体結晶成長のその場X線回折測定 --- 佐々木 拓生(QST)


LEDや半導体レーザーなどの光デバイスの開発において、緻密に構造が制御された人工結晶を成長させることが必要とされています。高輝度放射光を用いると、原子が集まって結晶になっていくダイナミックな現象を物質の構造変化としてその場測定することができ、緻密な構造制御につながる様々な情報が得られます。本実習では、半導体の薄膜結晶を成長させながら、その表面構造を放射光X線回折で観察し、結晶成長のメカニズムについて学びます。


BL13XU:サブミクロン集光放射光ビームによる局所領域回折実験 --- 木村 滋・隅谷 和嗣(JASRI)


SPring-8のような第三世代放射光源の最大の特長は輝度が高いことです。この特長は微小なX線ビームを形成する場合に威力を発揮します。本実習では、SPring-8の放射光をゾーンプレートと呼ばれる集光素子で数100 nmサイズに集光するとともに、その集光ビームを利用したX線回折実験を実施します。この手法が局所領域構造を調べる上で非常に有効であることを、ミクロン領域に選択成長した化合物半導体細線構造を測定することで実感してもらいます。


BL17SU:光電子顕微鏡 ?ナノ分解能で見る元素分布と磁気構造? --- 大浦 正樹(理研/関西学院大学)・濱本 諭(理研)


光電子顕微鏡(PEEM)は、ナノ?ミクロンのスケールで、物質表面の電子状態や磁気状態について2次元的に調べることが出来る装置です。エネルギー・偏光可変の軟X線放射光と組み合わせることで元素毎に磁気構造を調べることが可能で、先端物質科学の研究分野に広く活用されています。本実習では、標準試料を用いて PEEM測定の基礎を習得するとともに、応用例として単結晶試料を用いた磁区観察を体験して頂きます。


BL19B2:粉末X線回折 --- 大坂 恵一(JASRI)・佐藤 眞直(JASRI/岡山大学)


粉末X線回折は、構造解析技術として物質科学研究での重要な技術であるばかりでなく、複数の化合物から成る材料の組成分析技術として産業界(企業)でも広く用いられています。高輝度な放射光を用いた粉末X線回折では、通常は検出が困難な微量成分も短時間で測定できるため、機能性セラミックスの開発などに盛んに用いられています。今回は、BL19B2のハイスループット粉末回折計で良質なデータを取得するための装置調整と測定の実習を予定しています。


BL22XU:X線回折法を利用した金属材料応力・ひずみ評価 --- 菖蒲 敬久・冨永 亜希・藤森 伸一(JAEA)


身の回りには自動車や鉄筋コンクリートの柱といった構造物に囲まれて暮らしています。構造物の中には、加工等により出現した残留応力が存在しており、時間とともにそれらが変化し、破壊現象を引き起こしています。この残留応力を評価することが出来る手法の1つがX線応力・ひずみ測定です。本講習では、目には見えない応力やひずみをX線回折法により計測する原理を学び、実際に放射光X線を使って測定して頂きます。


BL24XU:マイクロビーム小角X線散乱による局所分析 --- 桑本 滋生・漆原 良昌・横山 和司(ひょうご科学技術協会)


小角X線散乱(SAXS)法は、試料内の数ナノから数百ナノメートルの秩序構造を分析する測定手法です。このSAXS測定にX線マイクロビームを利用することで、微小・微細試料内の局所構造分析が可能となります。本実習では、集光素子を利用してマイクロビームを作り、参加者ご自身の毛髪を試料としてマイクロビームSAXSを体験していただく予定です。マイクロビームSAXSを利用して自分の毛髪の内部構造を観察してみましょう。


BL25SU:軟X線光電子分光と光電子ホログラフィー --- 松下 智裕(JASRI/奈良先端科学技術大学院大学)・橋本 由介(奈良先端科学技術大学院大学)・室 隆桂之・小谷 佳範(JASRI)


光電子分光は、光電効果を利用して物質の電子状態を観測する手法です。内殻準位から励起される光電子をエネルギー分析して得られる一次元スペクトルから、構成元素の種類やその化学結合状態を知る事が出来ます。近年、光電子の二次元角度分布(光電子ホログラム)から励起原子周囲の三次元原子配列を再生する光電子ホログラフィー解析技術が発展してきました。本実習では阻止電場型エネルギー分析器(RFA)を用いて光電子ホログラムを測定し、実空間データに再生する一連の流れを体験していただきます。


BL31LEP:GeV光ビームの生成と粒子・反粒子対の測定 --- 與曽井 優・堀田 智明(大阪大学)・村松 憲仁・時安 敦史(東北大学)


GeV光ビームは、X線に比べて10万倍程度高いエネルギーを持ち、素粒子・原子核の研究に利用されています。本実習では、レーザー光をSPring-8蓄積電子と逆コンプトン散乱させてエネルギー増幅し、GeV光ビームの生成を確認します。また、GeV光ビームと物質の相互作用を理解するため、スイープ・マグネット等を使って荷電粒子を偏向させ、粒子・反粒子対(電子と陽電子)の生成を測定します。実習を通して、簡単な電磁気学および量子力学、初歩の相対論にも触れながら、極微の世界を体験します。


BL37XU:X線分光イメージング計測の基礎 --- 菅 大輝・関澤 央輝・新田 清文(JASRI)


X線分光イメージング計測は、X線のエネルギーを選択(分光)して試料に照射することで、元素分布・価数・官能基を画像として可視化(イメージング)する手法である。近年では、光源サイズの縮小に加え、X線光学素子の性能向上によって空間分解能100 nm以下を実現し、様々な分野での試料における顕微分析に用いられている。本実習では種々のX線分光イメージング法の紹介とそれらの比較を行い、その手法の一つである結像型顕微分光イメージング計測を体験する。本実習を通じてX線分光の基礎、分析可能な試料の可否判断、X線検出器の取り扱い、ならびにデータ解析(画像処理やスペクトルなど)の基礎を学ぶことができる。


BL40B2:小角X線散乱法を用いたタンパク質分子の構造解析 --- 八木 直人・関口 博史(JASRI)


小角X線散乱法(SAXS)は、数nmから数μmの大きさや周期を持つ物質について、ダイレクトビーム近傍に観測される散乱X線の強度分布から、その構造を解析する手法です。これは高分子から粘土まであらゆる種類の物質に応用できる手法ですが、タンパク質溶液に適用することにより、“生きた状態”に近いタンパク質分子の構造を知ることができます。本実習ではタンパク質溶液からの散乱データ収集および分子構造予測に至る一連の解析を行い、タンパク質分子の構造-機能相関について考察します。SAXSの基礎と測定手法に関する知識は、タンパク質以外の試料にも役立つと思います。


BL41XU:単結晶回折(タンパク質) --- 熊坂 崇(JASRI/関西学院大学)・長谷川 和也・河村 高志・水野 伸宏(JASRI)・山口 峻英(茨城大学)

BL44XU:単結晶回折(タンパク質) --- 中川 敦史・山下 栄樹・櫻井 啓介(大阪大学)・山口 峻英(茨城大学)

・本実習は2つのビームラインで行われます。実習内容は同じです。ビームラインを個別に選択して希望することはできませんが、もしいずれかのビームラインでの実習を強く希望する場合には、事務局へのコメント欄に理由を記述してください。

単結晶X線回折は、分子の立体構造を原子レベルで詳細に明らかに出来る強力な手法で、幅広い分野で利用されています。生命科学分野においてもタンパク質の構造から機能を明らかにする構造生物学研究の主要な手法として用いられていますが、分子量が大きいことや回折分解能が限られているために、さまざまな手法が開発され独自の発展を遂げています。本実習ではこの解析の一連の流れを習得するために、二次元検出器による結晶回折データ測定とSAD法による位相決定、計算機を用いた分子構造の構築と精密化を体験していただきます。


BL43IR:赤外顕微分光による組成分布と電子状態の解析 --- 森脇 太郎・池本 夕佳(JASRI)


SPring-8はX線から赤外線まで広い帯域の光を利用することができますが、このうち、波長が最も長い赤外線を利用した分光実験を行います。赤外分光では、物質の組成や結合状態・電子状態に関する情報が得られます。放射光を利用した場合には、微小領域で、湿度・温度など様々な外部環境を制御した赤外分光などが行われています。本実習では、実験室装置を利用して、繊維などの身近な素材のスペクトル測定を行います。また、測定原理の説明と、加湿条件下の利用例紹介などを行います。

BL43LXU:Atomic Vibrations (Phonons) in a Simple Perovskite via Inelastic X-Ray Scattering --- Baron Alfred(JASRI/理研)・筒井 智嗣(JASRI/茨城大学)・石川 大介(JASRI)

perovskite structure of SrTiO3の図 The perovskite structure can be considered one beginning of complexity in materials science. The cubic perovskite structure is a simple one, chemical formula ABO3, with oxygen atoms on the faces of a cube, the "B" atom in the center and the "A" atom on the vertices. However, cubic perovskites are inherently unstable. For a binary cubic compound (such as NaCl) the lattice constant can be taken to be the sum of the atomic radii. However, for a ternary compound, one must either be very fortunate to have the three effective atomic sizes in the correct ratio to make a cube, or, more often, the crystal distorts, slightly, to a lower symmetry, and lower energy, structure. The slight distortions open the door to a range of complex and useful properties: one finds the perovskite structure in piezoelectrics, ferroelectrics, and multiferroics, even superconductors - and then in nearly every technological field. This tendency toward a distortion is often reflected in the microscopic motion of the atoms even before the distortion occurs, and can be inferred from observing the vibrational normal modes, or phonons, and may be linked to a “soft-mode” picture of a phase transition. In this practical, we will use x-ray scattering to investigate these atomic motions.
X-rays are now emerging as a uniquely powerful probe of atomic dynamics in materials. The small, ~ 0.001 eV, energy scale of atomic motions, as compared to the, typical, ~10,000 eV energy of hard x-rays, means that building a sufficiently high-resolution x-ray spectrometer is difficult. However, when completed, the advantages of the x-ray source and the method, make such a spectrometer an invaluable and highly sought-after tool. The practical will first include an introduction to the optics and optical concepts needed for such a spectrometer and then focus on measuring phonons in a relatively simple perovskite.
The 10m arm of the BL43LXU high-resolution IXS spectrometerの写真


BL46XU:X線反射率 --- 小金澤 智之・渡辺 剛・安野 聡(JASRI)・佐藤 眞直(JASRI/岡山大学)


可視光と同じようにX線も屈折率が変化する界面においてX線の反射・全反射・屈折が起こります。これらの現象を利用した分析手法がX線反射率です。X線反射率では膜厚が数nmの薄膜の密度や膜厚を評価することができます。実習ではシリコン基板やガラス基板に成膜された薄膜の膜厚評価を通して、X線の反射・全反射現象を体験していただきます。

BL47XU:放射光X線イメージングと基礎データ解析 --- 安武 正展・上杉 健太朗(JASRI)


放射光を利用したX線画像計測は、レントゲン撮影のように計測対象である試料の内部構造を単に可視化するだけでなく、得られた画像データを定量的に取り扱うことにより、様々な情報を引き出すことができます。本実習では、X線画像計測を行うための基本ツールである画像検出器の取り扱いについて習得するとともに、実際にX線画像データの取得を行い、得られた画像を解析するところまでを体験していただくことにより、放射光X線画像計測の基礎を習得することを目的とします。時間があればCTによる3次元イメージングにも挑戦します。


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