放射光(X線)で小さなものを観察する大きな2つの施設

2021年夏の学校 講義概要


講義1.放射光発生の基礎 --- 正木 満博(高輝度光科学研究センター)
電子などの荷電粒子が加速度運動すると電磁波が放射される。特に、電子シンクロトロンと呼ばれる加速器で作られる高エネルギー電子が、磁場により偏向された際に発生する電磁波をシンクロトロン放射光と呼び、指向性に優れ、輝度が高く、マイクロ波から硬X線に至る幅広い波長領域をカバーするという特性を持つ。本講義では、代表的なシンクロトロン放射である偏向電磁石放射、アンジュレータ放射、コヒーレントシンクロトロン放射、自由電子レーザーなどについて、その発生原理と性質をなるべく直感的に理解できるように解説する。


講義2.ビームライン ~光源と実験ステーションを繋ぐもの~ --- 仙波 泰徳(高輝度光科学研究センター)
放射光利用実験では光源からの放射光をそのまま利用することはほとんどなく、ユーザーの用途に合わせてビームライン光学機器で様々な制御(例えば光のエネルギーやサイズの調整など)がなされたX線が提供される。講義ではX線光学の定性的な説明を行い、それらを利用したビームライン光学機器類について紹介した後、熱対策などの技術的な問題について触れる。


講義3.X線検出器の基礎 --- 上杉 健太朗(高輝度光科学研究センター)
X線は電磁波の一種です。目で見ることはできませんが、医療ではレントゲン写真やX線CT画像が日常的に撮影され、材料開発ではX線回折などで我々に有用な情報をもたらします。SPring-8でも多種多様なX線検出器が利用されています。この講義では、X線検出器でX線が検出される原理や各種X線検出器の構造と性能について解説します。

講義4.X線自由電子レーザー入門 --- 山田 純平(理化学研究所)

X線の発見から約120年後の2009年に、米国のSLAC国立加速器研究所が人類最初のX線レーザーを実現させました。それから2年後の2011年には日本の理化学研究所が世界で2番目のX線レーザーを実現させ、SACLAと名付けました。現在ではX線レーザーの建設が世界各地で行われており、今まさにX線レーザーの時代が始まろうとしています。これらのX線レーザーは「自由電子レーザー」と呼ばれるタイプの光源で、私達が普段イメージするレーザーとは異なる方法で光を作り出しています。この講義では、X線レーザーの仕組みとX線レーザーによって可能になったサイエンスをSACLAの取り組みを交えながら紹介します。


講義5.X線イメージング --- 篭島 靖(兵庫県立大学)
X線の高い透過性はレントゲン写真のように物体内部の構造観察を可能にする。さらに、放射光X線の高輝度性は様々な新しい画像法(イメージング)を可能にした。屈折コントラスト法による高コントラスト動的観察、走査型X線顕微鏡による微量元素の二次元分布測定、X線顕微鏡トモグラフィーによる三次元内部構造の顕微観察、コヒーレントX線回折イメージング等を例に挙げ、SPring-8における応用例を紹介する。


講義6.X線回折入門 --- 高橋 功(関西学院大学)
物質の性質を理解する上で、原子配列は最も基本的かつ重要な情報の一つであり、放射光を用いた回折・散乱実験はそれを明らかにする有力な手段の一つです。当日の講義では、回折・散乱現象の基礎から出発し、電子・原子によるX線の回折・散乱とそれを用いることでいかにして原子配列についての理解が可能になるのかについて概観していきます。基本的な数式を示しながら説明していきますが、個々の式の詳細にこだわらずに、数式のもつ意味と数式間の論理の流れを追うようにすれば理解しやすいと思います。


講義7.XAFSの基礎 --- 伊奈 稔哲(高輝度光科学研究センター)
X線吸収微細構造(XAFS)法は、対象となる元素の原子価やその周囲の局所構造を得られる測定法である。XAFS法は結晶性を有する試料のみならず非晶質の試料も測定できるため、その測定対象は多岐にわたる。本講義ではXAFSの基礎から測定の概略、SPring-8における測定事例について紹介する予定である。


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